ブロックチェーンは「私たちの未来」をどう変えるか?

新技術の可能性について結論を急ぐな
池田 純一 プロフィール

そのような記述は、実際、『ブロックチェーン・レボリューション』の中でも散見される。

つまり、かねてから温めてきた「何がしたいか」という技術以前の「目的」ないしは「課題」の部分と、とはいえ実際に(夢物語ではなく)何ができるのかという技術の現実的な「評価」ないしは「紹介」の部分とが、交互に入れ代わり立ち代わり現れる。著者自身も考えながら、そしてこれからの未来を見据えながら手探りで記している。

そうしたトーンは、もちろんムーゲイヤーの『ビジネスブロックチェーン』にも見られる。

この本の冒頭には、ビットコインとは異なる仮想通貨である「イーサリアム」の開発者・創業者であるヴィタリック・ブテリンの序文が掲載されているが、その序文にそうした「揺れる」部分が簡潔に記されている。

イーサリアムは、ブロックチェーンの開く新たな可能性の一つとして掲げられる「スマートコントラクト(自律実行型契約)」への拡張性に賭けた技術/ビジネスだ。

ヴィタリック・ブテリン〔PHOTO〕gettyimages

ちなみにブテリンは、ティール・フェローシップの一人でもある。

ティール・フェローシップは、ピーター・ティールが設立した、大学進学というモラトリアムをバイパスして有能な人材に起業の機会と資金を与える制度だ。その受給者であるということはそれほどブテリンが若き――94年生まれの22歳!――起業家として期待されていることを意味している。

ティールは、ドナルド・トランプを予備選の頃から支持した稀有なシリコンバレーの投資家として、いまや次期トランプ政権のハイテク政策の舵取りに多大な影響を与える地位を得た。そのことを思うと、ブテリンらの夢が実現する世界も想像以上に早いのかもしれない。

ムーゲイヤーによる本文の記述も、こうしたブテリンの序文に込められた逡巡を一つずつ解きほぐすために記されている。しかし、それは当然といえば当然で、現在進行形で進化中の「ナマモノ」に対してその実体をなんとかつかまえようと試みているのだから、行きつ戻りつがあるのは思考の痕跡として自然のことだ。

 

実際、ムーゲイヤー本を読んでいると、たとえば「スマートコントラクト」でいう「契約」とは具体的にはどういうものなのか、本当のところ、英語の「コントラクト」と日本語の「契約」とでは同じ対象を指しているのか、などということまで疑問に思えてくる時がある。かなり頭を使わされる。言葉の定義ないしは概念そのものを拡張しようとするところも時折見られるからだ。

その意味では、目的と方法の評価が相互に入れ替わるのと同じくらいの頻度で、抽象化と具体化の話も入れ替わり立ち替わり現れる。

だが、そもそもビットコインとブロックチェーンの関係がまさにそれであった。仮想貨幣という一つの具体的アプリケーションとしての「ビットコイン」と、そのようなアプリを支える要素技術としての「ブロックチェーン」というプロトコル(手続き手順体系)がそうだ。つまり、「実装」と「概念」という形で、具体と抽象の間を行き来する。

しかも、その両者は一種の比喩の関係にある。一と多の関係にある。実装されたアプリはあくまでも一つの「実例」だが、同時に、他の可能性を喚起する「範例」でもあるからだ。