「EU離脱」国民投票から半年のイギリスでいま起きていること

【現地リポート】迷える伝統国家の行方
小林 恭子 プロフィール

離脱派国民の怒り

国民投票では離脱票が約52%、残留派が約48%の票を集め、僅差で離脱派の勝利となった。英国は離脱派と残留派に大きく分かれた格好となった。

投票日の直前まで残留派と離脱派の支持率は拮抗し、負けた側の残留勢力は選挙の結果が出たからといって簡単には諦めきれない。「国民投票を再度行うべき」と訴えるデモが各地で発生し、一時は400万人の署名を集めた。

残留を支持した「48%の人のための新聞」という触れ込みで、週刊新聞「ニュー・ヨーロピアン」が7月に創刊され、4万部という小さな規模ではあるが、現在も発行が続いている。

残留派が圧倒的に多い政治家の中には「離脱という国民の決断は受け入れるが」と前置きをした後で、「本当に離脱して良いのか、考えてみるべきではないか」と再考を促す人がいる。

労働党党首時代に10年間政権を担当した、ブレア元首相も再考推進派だ。11月末には、左派系週刊誌「ニュー・ステーツマン」のインタビューに応じ、「不利益が利益を上回る場合、離脱を中止することは可能だ」と述べた。

選挙中は英国独立党のファラージ党首(当時)やジョンソン元ロンドン市長の「英国を私たちの手に取り戻そう」、「投票日を英国独立の日としよう」というキャッチフレーズが多くの人の心をつかんだ。EUに払う巨額の拠出金を英国の医療サービスや教育に使おうというメッセージも大きなアピール力を持った。

こうした政治家(「ポピュリスト」=大衆迎合政治家=)の「口車に乗せられた、無知な大衆」という決め付けに、離脱派は苛立ちを覚える。「離脱に投票した人は、自分が何に投票したかを知らずに投票した」という発言が離脱派国民の心に怒りの火をつける。

11月のある週、BBCテレビの視聴者参加型番組「クエスチョン・タイム」には自由民主党のティム・ファロン党首が出演し、「離脱派は投票後にどうなるかを知らずに投票した」と発言。会場にいた何人もの視聴者が怒りの声をあげた。

 

当時、「ハード・ブレグジット」(EUの単一市場から出る)と「ソフト・ブレグジット」(単一市場に参加し続ける)という造語が飛び交っていた。

「私たちは情報を集め、十分に考えてから離脱に投票した。ブレグジットはブレグジット、つまりはハード・ブレグジットだ」とある視聴者が憮然とした表情で述べる。

「もちろん、私たちは離脱の意味を知っていた。なぜ知らない、というのか」——別の視聴者も声を上げた。

離脱派国民の大きな懸念は、残留派が多い下院議員の手によって、ブレグジットが事実上実現されず、うやむやになってしまうことだ。

11月上旬、高等法院が離脱の正式な手続きの開始には議会の承認が必要という判断を下すと、離脱派の大衆紙デイリー・メールは裁判官らの顔を1面に並べ、「国民の敵」という強い口調の見出しをつけた。

残留支持者の議員でいっぱいの議会が離脱について議論をすれば、離脱交渉の開始が遅れるばかりか、ことによったら「つぶされる」可能性もある、だから裁判官らは離脱を選んだ国民の敵だ、というわけである。

来年3月末までには離脱交渉を始めると宣言したメイ政権は「議会の承認は必要ない」と考えており、上告した。今月上旬、最高裁が審理を実行。来月には判断が出る見込みだ。