「EU離脱」国民投票から半年のイギリスでいま起きていること

【現地リポート】迷える伝統国家の行方
小林 恭子 プロフィール

ポンドは急落したが…

危機が続くユーロの停滞とは反対に強い位置を占めてきたポンドは、国民投票の結果を受けて急落した。

対ドルでは一時10%も暴落し、市場は混乱。対円では国民投票以前には1ポンド170〜180円程度だったものが、一時は130円を切るところまで落ちた。現在は140円〜150円で動いているもの、依然として対円ではポンド安が続く。対ユーロも同様の状況だ。

経済成長率は7〜9月の四半期では前期比0.5%増。サービス産業が牽引役となった。 11月の小売業は昨年同月比で5.9%増加している。

イングランド中央銀行(BOE)は来年の経済成長率をブレグジット決定前の0.8%から1.4%に上方修正した。ただし、2018年の成長率は当初予想の1.8%から1.5%に下方修正しているが——。

経済の現況にはBOEによる一連の景気刺激策が功を奏したと言われている。8月には金利を0.5%から0.25%に切り下げ、国債の大量買い上げも行ってきた。

 

政府も負の影響を和らげるため、法人税率を2020年までに現行の20%から17%に引き下げる、企業の先端技術に年間20億ポンド(約2700億円)を追加するなどの政策を発表している。

経済面ではそれほど大きな変化が起きたとは思えない昨今だ。

〔PHOTO〕gettyimages

EU市民の生きづらさ

国民生活のレベルで最も変わった点は英国に住む、EUからやってきた移民への視線だ。

人、モノ、サービスの自由な行き来を原則とするEUだが、EU市民の英国への移民としての流入が問題視されるようになる遠因を作ったのは、2004年、旧東欧諸国を中心とする10ヵ国が加盟してからだ。

2008年の金融危機以降、政府は緊縮財政を敷き、公的サービスの削減や失業に苦しむ国民の目に、ポーランド、ハンガリー、チェコなどから来たEU移民の姿が「職を奪う」存在として見られるようになってゆく。

離脱派の主張は「EU官僚に自分の国を牛耳られたくない」「無制限のEU移民の流入を止めたい」の2つが大きい。移民に批判的なことを言えば、かつては「人種差別主義者」というレッテルを貼られた。

しかし、ブレグジットで「反移民的なことを言っても良い」という雰囲気が生まれた。国民投票への選挙戦がたけなわの6月17日には、離脱派の下院議員が国粋主義的男性に刺殺される事件まで発生している。

英警察の調べによると、国民投票前後の6月16日から30日までに報告されたヘイトクライムの件数は3219件で、前年同時期よりも37%の増加。7月15〜28日では3236件で、40%の増加だった。

現在までに「件数は落ち着いてきた」(警視庁幹部)というが、筆者の知人からも、「バスに乗っていたら、『国に帰れ、と言われた』」という話を聞いた。ちなみにこの知人は英国人。母親がフィリピン人で本人は肌の色が褐色のため、心ない言葉を吐いた人がいたのだろう。

BBCラジオ4の番組『ブレグジット——海外に住むフランス人の反応』(9月22日放送)に登場した在英フランス人があるエピソードを披露した。

彼女は英国人と結婚し、娘を産んだ。ある日、成人になった娘がロンドン市内でフランス人の友人と共に通りを歩いていたところ、反感を持った視線を向けられ非常に驚いたという。「フランス語で話すというだけで反感を持たれるなんて」。

英国内に住むEU出身の市民は約300万人。10年以上英国に住み、生活の根を下ろした人もたくさんいる。こうしたEU市民たちが、ブレグジット後も英国でこれまで通り生活できるのかどうかは不明だ。

政府はEU域内に住む英国の市民がこれまで通りの生活を続けられるという確証を得ることと引き換えに、英国内のEU市民にも同等の権利を与えるよう求めている。EU側は「全ての交渉は、メイ政権が正式に離脱通知を発動する来年3月末以降」と答えている。