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45年のロングセラー「ヤシノミ洗剤」絶大な人気の秘訣

サラヤ・更家悠介社長に聞く
サラヤ・更家悠介社長

「ヤシノミ洗剤」で知られるサラヤを取材した。高度成長期、洗剤は石油系の商品が主流だった。少量で多くの汚れを落とすが、肌につくと手荒れの原因になることがあり、また排水は分解されにくく河川や海を汚染し社会問題となる場合もあった。そんな中、同社は天然のヤシ油を原料に、無香料、無着色の洗剤を開発。手荒れや環境問題を気にするユーザーから絶大な支持を受けている。更家悠介社長(65歳)に聞いた。

創造には「ゆらぎ」が大切

【父の仕事】

学校や会社の洗面所に、石鹸液を押し出す機器がありますよね? あれを開発したのは私の父です。昭和20年代、教育関係者が手洗いを奨励し始めた時に作り、全国に広まりました。当初、あの機器は手作りで、石鹸が出る穴も父が手回しのドリルであけていたんですよ。父は「一台取り付けるだけで手に血豆ができた」と振り返っていました。

【45年】

ヤシノミ洗剤は元々、学校給食の現場に納入していた業務用洗剤です。しかし現場の方から「手荒れしにくいので小分けにして譲ってほしい」との声をいただき、家庭用を出しました。

当初は効果を実感していた方にしか売れず、在庫を抱え、父はどうしたものかと悩んだそうです。しかし、小売店へ商品の丁寧な説明をするうち、徐々にロイヤルカスタマーが増えてきたんです。以来45年、これだけロングセラーの洗剤はなかなかありません。やはり「正しいこと」こそが、長く続く商売になるのでしょう。

 

【発明の源】

子どもの頃、私は工場の隣に住んでいました。生意気で、工員さんに力比べを挑んで負かされたりしていました。父は発明が好きで、いつも世の中にないものを創造しようとしていました。私も長じて、発明がどこから生まれるかが感覚的に理解できるようになりました。まず、良質なコミュニケーション。

たとえば「この酵母がこんな界面活性剤を作り……」といった技術情報と、市場の「こんなものがほしい」といった声、その両方が聞こえた時、初めて画期的な新商品が生まれます。あとは、現場の「ゆらぎ」も大切です。

たまに、いつもと別のやり方を試したら想像以上の結果が出ることってありますよね? 常に、日常を少し変え「ゆらぎ」を創り出すことが重要です。逆に目標管理が厳しいと現場に余裕がなくなり「ゆらぎ」が起きにくくなってしまいます。

ケミストリーはこうして起こる

【代替わり】

社長になったのは47歳の時です。父は素晴らしい人物でしたが、やはりガバナンスに対する意識などは古かったと思います。

父との関係で強く意識したのは「親子も組織も理屈じゃ動かない」ということ。例えば'97年に米国で合弁会社を設立した時。父は、現場レベルでの準備がほぼ整った状態だったのに急に「やめておこう」と言いだし、私は焦りました。この合弁はアメリカ市場への挑戦で、将来性もあると予想でき、ここでやめたら合弁相手にも申し訳ないと思ったのです。でも、理屈で攻めたら決定的対立を招きかねません。

そこで私は、父の方針を承諾したふりをして父が忘れるのを待ち、「撤退も視野に入れ慎重に進める」などと説得し、なんとか合弁会社設立まで持っていきました。社長の代替わりに関わることの多くが、理屈では処理できないのだと思います。また、変えたいことがあれば、徐々に変化させ、慣れてもらうことも大事でした。

【空】

趣味はマイセン磁器の収集と釣りです。釣りのいいところは、いわゆる「アンラーニング」ができること。いったん学習したことは、意識的に忘れ、再び学び直し……と繰り返すことで定着していくのだそうです。だから、自然と一体化し、頭を空っぽにして釣りに打ち込んでいます。

【ケニア】

当社は今、食品などを保管する冷凍装置を作っています。洗剤だけでなく、様々な技術で衛生面を保つ企業へと生まれ変わろうとしています。私たちは冷凍装置を利用し、アフリカや東南アジアでのビジネスを拡大します。ケニアではタイやマグロが獲れますが、衛生管理の技術がなく、日本には運べません。

そこで当社が、魚の水揚げ、加工、運輸まで、サプライチェーンをすべてコントロールすべく提案をしています。今までは、洗剤など、衛生システムの一部を販売していました。しかし今後はシステム全体を変える「ネットワークイノベーション」を、5年前後で起こしたいと考えています。

【習慣】

「経済」の語源は「経世済民」だと言われます。世を治め、民を救う道が「経済」なのです。当社は今後も商品開発を通し、世の中を変えていくことが目標です。

たとえば医師が手術をするとき、昔は洗面器に殺菌剤を入れ、手を洗っていました。でも今は、専用のアルコール消毒剤が発明され、それが一番衛生的だとわかっています。今も殺菌剤に手を浸している先生はいますが、今後は徐々にアルコールへとシフトしていくでしょう。

このように、当社は新しい商品を作ることで衛生習慣を変えていきたい。それこそが、父の時代から受け継いできた願いです。

(取材・文/夏目幸明)

更家悠介(さらや・ゆうすけ)
'51年、三重県生まれ。'74年、大阪大学工学部卒業。'75年にカリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程を修了し、'76年、サラヤへ入社。'98年に代表取締役社長へ就任し、以来現職。NPO法人ゼリ・ジャパン理事長、NPO法人エコデザインネットワーク副理事長など公職多数

週刊現代』2016年12月17日号より