OECD(経済協力開発機構)が11月下旬の改定で来年の見通しを0.1%高の3.3%(実質成長率)に上方修正するなど、世界経済は穏やかな回復を続けているとされる。
その牽引役と目される米国は、米国第一主義を掲げる新大統領の来月就任を控えて“トランプ・ラリー”(米国株高)に沸き、日本の株式市場も連動を強めている。好材料にしか目が向かず、悪材料を無視する状況に陥っているのだ。
しかし、「死角はない」と言い切れるだろうか。
実はトランプ・ラリーこそ新たな経済危機を招きかねない元凶だ。リスクの第一は、米国のドル高容認策が拍車をかける膨大なマネーの米国回帰だ。途上国の外貨準備を枯渇させて、国際的な通貨危機を招く原因になりかねない。
IMFによると、現在、抵抗力の弱さが際立っているのはマレーシアである。次いでトルコ、メキシコといったG20諸国も脆弱だ。
また、世界第2位の経済大国・中国の問題は以前にも本コラム(2016年3月8日付『リーマンショック以上の危機!? 中国の外貨準備高3兆ドル割れ目前』)で予測した通り、一段と深刻さを増している。
同時に、ドル高容認政策が米国の純輸出減少を原因とする経済の減速を招き、新大統領が重視する雇用創出の障害となる産業空洞化を煽りかねないことにも警戒が必要だ。
米連邦準備理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)を開いて1年ぶりに実施した利上げを受けた先週水曜日(12月15日)、日本の株式相場はこれ以上ないほど非合理的な動きを見せた。
FOMCメンバー17人が今後の利上げシナリオを公表、その中心値が来年(2017年)3回、再来年(2018年)3回と、金融引き締めの加速を宣言。
今後急騰が予想される金利と、すでに大きく上げた株式のどちらが有利な投資先か見極めたいというムードと、長期金利を上回る短期金利の上昇でトランプ・ラリーの主役だった金融株に対する収益悪化懸念が浮上したことが響いて、14日のニューヨーク市場ではダウ平均が前日比118ドル68セント安と、およそ2ヵ月ぶりの下落幅を記録した。
トランプ・ラリーのご本家が警戒感を示したにもかかわらず、翌15日の東京市場は、それさえ目に入らず、日経平均株価が8日続伸し、連日で年初来高値を更新するというお祭り騒ぎに沸いたのである。
同日の東京外為市場では、円が一時1ドル=117円台後半と約10ヵ月ぶりの円安水準を付けたが、株式市場が着目したのは、自動車などの輸出が伸びるのではないかといった円安のプラス面ばかり。輸入物価が押し上げられて食品価格が高騰し、個人消費に冷や水を浴びせかねないといったマイナス面はまったく顧みられなかった。
トランプ・ラリーに浮かれて、自国通貨安が輸出拡大に役立つと歓迎しているのは、日本ぐらいである。