「中森明菜ディナーショー」潜入ルポ〜4万6000円でも即完売!

辛酸なめ子、自腹で流行の波に乗る
辛酸 なめ子 プロフィール

『DESIRE』に「は〜どっこい!!」と合いの手

そうしているうちに会場は暗転、人々が歓声を上げる中、白に黒っぽいオーガンジーを重ねたドレスの中森明菜が登場。

ディナーショーなので高級感があり、完売の余裕を感じさせます(衣装はその後何回かチェンジ)。オーガンジーで覆われた腕が細いですが、筋肉が付いているのはトレーニングの成果でしょうか。ポニーテールのように結ったヘアスタイルで、美白の肌は昔と変わらず、細い眉に薄幸なフェロモンが漂っています。

紅白の中継で歌った『Rojo-Tierra』を歌い上げる明菜。声、全然出ています。明菜の声は独特なゆらぎがあり、吠えている犬も大人しくなるという実験を昔何かで見たことがありましたが、その1/fのゆらぎは健在で、脳波がシンクロして会場中が癒されるような音の波動に満たされました。

そのあと2曲ほど新しめの曲を歌うと、MCコーナーに。沈み込むようなお辞儀をすると、ディナーショーで緊張したけれどファンの声が嬉しかった話、トークが得意じゃない弁解や、紅白の中継で心配させたことへのお詫びなど、自虐トークでファンを盛り上げました。

 

十数年前、明菜のコンサートに行ったときもタメ口でファンが呼びかけるのに驚きましたが、その風習はまだ続いていて、感動して涙で声が詰まった明菜に「大丈夫だよ!」「がんばって!」「大好き!」などの声が飛んでいました。

ファンの上から目線を許しつつ、さらに発展させて、一人SMというべき話術に達した明菜。

「スモークがたかれて前の席の方はなんだよこれって思うかもしれませんが……」

「そんなことより早く歌えよっていう声にも聞こえますが……」

「この曲やあの曲が待っても出てこない、チクショー、このヤローって思う方もいるかもしません」

と、ファンの方が何もそんな風に思っていないのに、自分から非難されているように下手に出るという、ドMトークです。それがもしかしたら明菜のパフォーマンスの完成度を高めているのかもしれません、常に厳しいファンの視線を意識し、たゆまぬ努力をしているのです。

会場ロビーで売られていた中森明菜デザインのモノグラムバスローブ2万円。ブレないセンスがさすがです。photo by Nameko Shinsan

後半は、そんなファンを満足させるため「もうムリ」と思いながら構成したという、十数曲の怒濤のメドレーでした。『TATTOO』『APPETITE』『ミ・アモーレ』『飾りじゃないのよ涙は』『十戒』『タンゴノアール』『少女A』『DESIRE』など名曲のイントロが流れるたびに歓声が巻き起こります。手だけで踊っている人、口パクで歌っている人も結構います。

最も盛り上がったのはやはり『DESIRE』。なんとご本人の歌に対して皆で「は〜どっこい!!」と合いの手が入れられるとは。これだけでもチケット代の元は取れた、奇跡の瞬間です。

歌っている時はパワフルなのに、歌い終わると「ありがとうございます」といきなりささやき声になるギャップが相変わらず魅力的でした。声のボリュームを下げたり、休業したり、適宜省エネモードに切り替えるのが上手で、声の状態を保ち、誰よりも歌姫生命が長続きしそうです。働きすぎの現代人は明菜のオンとオフの切り替えに学んだほうがいいかもしれません……。

ちょっぴり怖くてちょっぴり笑えてちょっぴり切ない処世をめぐるエッセイ集