人類はいま、大きな「時代の節目」を迎えているのか?

文明探偵の事件簿2016
神里 達博 プロフィール

身体にとっては「異常事態」

グローバル化は、世界中のあらゆる場所と個々人の生活を、暴力的に直結する。

それによって、世界で最も安いコストで作られた製品が、大型スーパーの棚に並ぶようになり、多くの普通の人々が――といっても結局は先進国の人々なのだが――物質的な豊かさを実感できるようになったのは、間違いない。

しかし同時に、地球の裏側の、見たことも聞いたこともない人たちと、同じ「労働者」として競争し、同様に、そのような非常に遠くからやってきた工業製品や食べ物に依存して暮らす。さらにそれらが全てネットワークでつながって24時間、情報的に共有され続ける。

その上、リアルもバーチャルも含めてだが、突如、訳の分からない「ウイルス」に襲われて大変なことになる、というリスクも抱えている。このような状況は、生身の身体の立場からすれば、全く「異常事態」としか言いようがない。

そもそも身体とは、「グローバル」とは真逆な存在だ。

世界にいま、ここにしか居ない、起きて半畳寝て一畳の私は、この体温と重さとリズムをもって生きていると、確かめられる。

これらの原初的な条件を、高度なテクノロジーや種々のメディアが日々干渉し、心身がぐらぐらと揺さぶられる、この不快感を受け入れることこそが、グローバル化した世界を生き抜く条件になっている。

これまで、その「サニーサイド」が過度に喧伝されてきた。これさえあれば、世界中の「消費者」は豊かになり、幸福になりますよ、と。

グローバル化は新自由主義と一緒になって、人間のさまざまな属性のなかで「お客様」の立場だけを突出させる。だが同時に小声でつぶやく。それを妨げるものは、家族であれ、企業であれ、伝統であれ、国家であれ、神様であれ、みんな取り除きましょうね、と。

そうやって、まさに英米が中心になって進めてきたグローバル化運動が、その総本山たる英国と米国で、よりによってアングロサクソンが最も重視する「民主的な手続き」によって、拒絶されたのである。

そんなことを引き起こした原動力は、人々が「身体を再発見したこと」であるように思えてならないのだ。

 

人間性が機械に奪われる?

もう一つ今年、大きな話題になったのが、「人工知能」である。

春先に「アルファ碁」というソフトウェアが、ディープ・ラーニングという技術を使うことで人間に勝ったというニュースに、世界中が驚愕した。数年前から注目されていた「シンギュラリティ」の接近を示唆するのでは、と怯えた人も多かったようだ。

〔PHOTO〕gettyimages

すでに、自動運転やブレイン・マシン・インターフェイスの進展など、ITが私たちの生活の隅々に入り込み、それこそ毛穴の奥にまで浸透していく勢いのなか、映画『トランセンデンス』で描かれたような、人間性そのものまでキカイに奪われるのではないかという不安を、人々は抱いたのだ。

ただこれは、古くて新しいテーマである。実際に、コンピュータ技術がそこまで行くか、という点については、私は一般に語られているのとは少し違う見立てを持っている。

だが少なくとも、この話題も「身体性への回帰」と深く関わっているのは間違いない。今後、さまざまな「逆向きの動き」が出てくる可能性もあるだろう。

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