ソフトバンク孫正義がトランプに会いに行った「本当の理由」

プレゼン資料にはあの企業の名前が…
加谷 珪一 プロフィール

本当の意味でのリスク・テイク

ソフトバンクは1994年に店頭公開(上場)を果たしたが、直後から一連の買収戦略をスタートさせている。

最初に買ったのは何と米国のコンピューター展示会であった。1994年に米ジフ・デイビスの展示館部門を200億円(当時のレート)で、続いて世界最大のコンピューター展示会「コムデックス」を800億円で買収した。

当時は、ただの展示会に1000億円もつぎ込むなど、狂気の沙汰だという評価が一般的であった。実際、買収した展示会部門はほとんど収益に貢献しないまま売却してしまったが、代わりに同社はとてつもない果実を得ている。それは米国IT業界へのパスポートと、その結果としての米ヤフーへの出資である。

当時のIT業界におけるコムデックスの存在感は極めて大きく、毎年ラスベガスで開かれる展示会にはマイクロソフトのビル・ゲイツ会長などIT業界のスターが結集していた。孫氏は名誉ある展示会のオーナーとして、IT業界の中枢に入り込むことに成功した。

これは日本人としては極めて異例のことであり、この立場があればこそ、米ヤフーの発掘にこぎ着けたといっても過言ではない。つまりコムデックスは当時のIT業界における1丁目1番地だったわけである。

ARMの買収も基本的には同じである。ARMはIoTビジネスにおいて1丁目1番地となる企業のひとつであることはほぼ間違いない。ARMのオーナーということになれば、産業向けIoTのリーダーである米GE(ゼネラル・エレクトリック)や独シーメンスといった巨大企業もソフトバンクを無視できないだろう。

孫氏は常に、次世代において中核的役割を果たす企業に手を付けておきたいと考えている。具体的なシナジーをどう作り出すのかは、その時にならないと分からない部分も多い。業界の主役となる企業を押さえておけば、自然と答は得られるはずというのが、おそらく孫氏の基本観である。

もし今回の会談が孫氏の目論見通りに進めば、孫氏は米国IT業界の中でも極めて重要なキーマンとなる。しかもARMのオーナーであり、アリババやヤフーの大株主でもある。

この立場を手にすることができれば、一度は断念した米国通信業界4位のTモバイルUS買収も実現できる可能性が高まってくる。というよりも、その時には、現時点では想像もしなかった案件が転がり込んでいるかもしれない。

極めてリスクの高いビジネス手法であることは事実だが、リスクに見合うリターンは十分にある。本来、リスク・テイクというのはこのようなことを指すのだろう。