ソフトバンク孫正義がトランプに会いに行った「本当の理由」

プレゼン資料にはあの企業の名前が…
加谷 珪一 プロフィール

ソフトバンクはかねてからiPhoneの国内販売でアップルと提携関係にある。しかも、孫氏とアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏との間には個人的な信頼関係もあった。一方ソフトバンクは鴻海との関係も深い。

ソフトバンクの人型ロボット「Pepper」の製造を担当しているのは鴻海であり、シャープの買収にあたっては孫氏が背後で動いたとも言われる。また、米国の大手通信会社であるスプリントを傘下に持ち、米ヤフーの大株主でもあるなど米国社会との関係も緊密だ。

孫氏はそれぞれの登場人物と関係が深いが、あくまで第三者であり、アップルとトランプ氏の間を取り持つには最適の人物である。

ソフトバンクと同様、鴻海も米国経済に貢献しているとアピールすることで、アップルへの風当たりを弱める効果を狙った可能性がある(孫氏が提示した資料の中には鴻海の分と思われる雇用創出に関する記述もあった)。

これはあくまで想像だが、鴻海とアップルが象徴的な意味で国内にiPhone製造工場を建設し、米政府がこれを支援するというスキームもあり得るだろう。

 

孫社長の1丁目1番地戦略とは?

もし、こうした形での「手打ち」を孫氏が仲介したということになれば、米国のIT業界は孫氏に対して足を向けて寝られなくなる。これこそが孫氏の狙いであり、この立場を手にすることができれば、通信会社の買収といった果実は後から付いてくるというのが、孫氏のホンネと思われる。

孫氏はこれまでも同じ考え方に基づいてビジネスを進めてきた。世間をあっと驚かせた英国の半導体企業ARMの買収も基本的な図式は変わらない。

ソフトバンクは今年7月、英国の半導体設計大手アーム・ホールディングス(ARM)を3.3兆円もの大金で買収した。日本企業による海外M&A(合併・買収)としては過去最大である。

ARMは、スマホ向けCPU(中央演算処理装置)の設計では圧倒的なシェアを持つ企業だ。近い将来、あらゆる機器類がインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)市場が急拡大すると予想されているが、こうした機器類に搭載されるチップの設計は、ARM社が一手に引き受ける可能性が高い。

つまり同社にとって今後10年間のビジネスは、ほぼ確約された状況にある。

ARMが超優良企業であることや、IoT(モノのインターネット)時代において同社が持つポテンシャルが大きいことは誰もが認める事実である。だが通信という共通項が存在すること以外、ソフトバンクとの間に目立ったシナジーがないのもまた事実である。

通信事業を営むソフトバンクとIoTのチップ設計を手がけるARMとではカバーする領域が異なっており、2社が協業する場面は想像しにくい。市場からは案の定、「シナジーが見込めない」「買収価格が高すぎる」といった批判が出ているが、孫氏は「ほとんどの人にはピンとこない(はず)」とまったく意に介す様子はない。

ソフトバンクはこれまでも、多くの人が理解できないM&A(合併・買収)を繰り返すことで巨大企業に成長してきたが、買収案件を発表するたびに、割高な買い物という批判も受け続けてきた。

ARM買収についても、現時点でシナリオが未知数であり、買収価格が高すぎるのも事実だが、孫氏はおそらく別のことを考えているはずだ。それをひとことで表すなら「1丁目1番地」戦略である。

ARM社買収の本当の狙いは…? Photo by GettyImages