日本初の高層ビル火災は、クリスマスの装飾で起きた
国連脱退前夜の光景私たちの戦前イメージは「暗い」。しかし、当時の新聞からクリスマスの記事を拾っていくと、まったく別の光景が浮かび上がってくる。満州事変や国際連盟の脱退くらいでは、クリスマス熱狂はおさまらなかったのだ。
クリスマスと日本人の不思議な関係を解き明かす好評連載第17回(前回はこちらhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/50195 第1回はこちらhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/47056)
「Xマスの飾りから発火」
1932年(昭和7年)になり、朝日新聞社でも「朝日 こどもの会 クリスマス」を朝日新聞社講堂で始める。音楽演奏に歌劇、斉唱独唱、に児童劇があってパラマウント発声映画「ジャッキー・クーパー主演『スーキー』」が上映される。入場料は20銭。
発声映画、というのがまだ無声映画が存在していた時代らしい表現である。
これとは別に映画『キング・オブ・ジャズ』の広告もあり、目立っている。ラインダンスで足をあげる女性イラストが描かれて、しっかり煽情的である。
昭和初年の日本はしっかりジャズの国であった。
あたらしいカフェー「銀座会館」の大きな広告もある。「日本最初のオールネオンライト メカニズムとグラスイズムの機械的幻想大サロン完成 銀座会館・大カフェーの大英断 均一チップ制」とのことである。
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1932年の12月16日、日本橋の百貨店白木屋で火事が起こる。号外が出されるほどの大事件であった。
「日本橋白木屋の大火 四階から発火 死傷者多数に上る 猛火に包まるる白木屋 焦熱地獄の惨! 消防の効果なし 高層は救助絶望 陸軍機七台出動する 原因は漏電か Xマスの飾りから発火 玩具係りの女店員語る」
これが第一報での見出しである。
死傷者が80人を越えた(死者は14人、ほとんどが墜落死)。
おもちゃ部女性店員(20歳と19歳)の証言
「九時二十分と思われるころ、玩具部に造ってあったとても大きいクリスマスデコレーションに漏電で発火して、つるしてあったセルロイドとそこに置いてあったセルロイドの玩具に燃え移ったために、非常に火勢が強く、見るまに店内に燃え広がったものと思われます」
クリスマスツリーに飾られたデコ電球から漏電して、ぱちぱち発火、それがセルロイドのデコレーションに燃え移り、セルロイドのおもちゃも燃え、セルロイドからセルロイドとあっという間に燃え移って鎮火できなかった、ということである。
これ以降、百貨店などのデコレーションからセルロイド製のものが排除されることになる。