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ボブ・ディランの詩はここがすごい! 難解だなんてウソです

極私的ディラン耽溺記
堀井 憲一郎 プロフィール

ディランの鮮烈な処女詩集

デビューアルバムの【ボブ・ディラン】には13曲が収録されているが、ボブ・ディランのオリジナル曲は2曲だけである。2枚めの【フリーホイーリン・ボブ・ディラン】の13曲が鮮烈である。このアルバムをディラン処女詩集と考えていいだろう。

多くの詩人もそうであるように、やはり処女詩集には詩人の魅力が凝縮している。

この処女詩集には、有名な『風に吹かれて』と『はげしい雨が降る』が収められている。

それ以外では『くよくよするなよ/ドント・シンク・トゥワイス・イッツ・オーライ』『第3次世界大戦を語るブルース』『アイ・シャルビー・フリー』という詩が好きだ。

ドント・シンク・トゥワイス・イッツ・オーライ』は、失恋した男の未練いっぱいの歌。この詩では、後半の「I give her my heart, but she wanted my soul」という一節が10代のころからずっと心に突き刺さったままである。

「ぼくは彼女にぼくのハートをささげた、でも彼女が欲しがっていたのはぼくのソウルだった」

あなたは子供ね、と彼女に言われ、ふられて、さまよい歩いている。でも、くよくよるすなよ、これでいいんだ。

そういう詩である。SoulはHeartを越えて彼女が欲しがるものである。Soulとは魔女が欲しがる〝人の内面そのもの〟におもえてくる。男がいいと信じてるものと、女がほんとうに欲しがるものはすれ違っている。ディランはそう語りかけてきた。

第三次世界大戦を語るブルース』は、反戦ソングのようなタイトルだが、そうではない(あまりいいタイトルだとはおもえない)。第三次世界大戦の夢を見た、という詩である。

第三次大戦の夢を見たと医者で言ったら、狂ってると言われ、恋人と下水道へ隠れ、街を歩きまわる。キャデラックをみつけ、それに乗って42番ストリートを下る。「こいつは、戦争が終わったあとに乗るにはいいクルマだ」。

反戦ソングではない。不思議な高揚感に包まれる詩である。

アイ・シャルビー・フリー

酩酊者の詩である。

四分の三、酔っていて、女を引っ掛ける。プレジデント・ケネディが電話をかけてきた。「マイフレンド・ボブ、国家の成長には何が必要かな」「マイフレンド・ジョン、それは、ブリジット・バルドーだよ、それにアニタ・エクバーグと、ソフィア・ローレンさ」

この調子で続く。「なんでいつも酔っ払っているかって、それは頭が平ったくなるし、心が軽くなるからさ」。酔った状態を歌い続ける。聴いていて私はとても気分がいい。

この時期のディランの詩は、常に遠くを見ている。自分がいる場所ではなく、ここより他の場所を強く意識して、自分たちが踏んでいない地平を歌う。想像できるかぎりの遠くを夢想するようにと教えられているようだ。

ディランの言葉を聞いているだけで、精神が身体から離れる気分になる。夢想の旅に誘われ、別の世界に迷い込み、異次元で走り回る。夢見るような時間が過ぎる。それが若きディランの詩である。