風俗界の大発明『ノーパン喫茶』は、こうして男たちをトリコにした

山本晋也×みうらじゅん×イヴ
週刊現代 プロフィール

単なる性風俗とは違った

山本 イヴちゃんは、週に1〜2日しか店に来なかったでしょう。なかなか会えないから、ますますスター性が高まり、「イヴちゃんに会いたい」という男性が増えた。

イヴ いつも来ていたお客さんもいました。その人が、ある日突然、自分の預金通帳を取り出して、「僕と結婚しませんか?」と真顔で言ってきたことがあった。二十代半ばぐらいの真面目そうな人で、通帳には2000万円ほど残高がありましたが、もちろんお断りしました(笑)。

みうら 正直、それまで風俗で働いている人はさほど美人ではなかったけれど、イヴちゃんは抜群にかわいかった。初めての「会いに行けるアイドル」でした。イヴちゃんに会うために、国宝阿修羅展を観るぐらいの行列ができていた(笑)。

 

イヴ お客さんがどれくらい待っているのかわかりませんでしたが、たしかに店外の階段にズラッと並んでいましたね。1杯1000円のコーヒーを頼むと30分間店内にいられるので、席が空くまで外で待っているんです。

山本 イヴちゃんは性格が明るくて気さくだし、サービスも満点。まだ「ノーパン喫茶の女王イヴ」と騒ぎになる前、取材で店を訪れたときに「あの子はいいねぇ」と店の人に話したら、「ええ、指名も多いです」と言っていた。それがマスコミに紹介されると、一気に火が付いた。

イヴ 山本カントクには「かわいい顔して下ネタもチラッと言う。天然だね」と言われたことを覚えています(笑)。

みうら カントクが『トゥナイト』でイヴちゃんを紹介したことも大きかったんだと思います。『トゥナイト』の宣伝力は、いまのネットの比じゃないですから。カントクが番組でレポートした翌日はお客が殺到して店に入れませんでした。

山本 『トゥナイト』が始まったのは'80年10月。僕が出るようになったのは'81年からだけど、ちょうどノーパン喫茶ブームが始まった頃だった。たしかに、反響は凄かったね。一般の女の子にも、『トゥナイト』を見て「東京に行けばなんとかなる」と思い、田舎から身一つで出てきたような子もたくさんいた。

みうら 店舗数が増えるに連れて、サービスも過激になっていった。たしか、『USA』には個室もあって、オプションでヌクこともできたよね。

イヴ 表向きは、二人きりで話すだけですが……、女の子がOKすれば、指名料を払って個室で20分間お話できるというシステムでした。私はトータルで1年半くらい『USA』にいましたが、個室に行ったのは一度だけ。それも店長にどうしてもと頼まれて。

みうら え!? 相手はどんな人だったの?

イヴ ふふふ、お相手はやくざの親分さんでした。といっても何もせずに、お話をしただけです。その親分さんは、若い者にまだ現役だということをアピールしたかったみたい。個室に行く前、「おまえら(若い子分)には見せてやらん」と上着を私の肩にかけてくれて、個室でもずっと上着を羽織ったまま、20分間、その親分さんの生い立ちなどをうかがいました。

山本 そんな店に来てても、男ってカッコつけちゃうんだよな。

みうら しかも、『USA』はちょっとオシャレで清潔感がありました。ほかの店も、なぜかオシャレ感を演出しようとしていて、店内に流れているBGMも、当時流行っていたテクノが多くて(笑)。YMOの『ライディーン』を聴くと、ノーパン喫茶を思い出します。

山本 一口にノーパン喫茶と言っても、バリエーションはスゴかった。『あべのスキャンダル』なんて、そのうち喫茶店では飽き足らず、後にノーパンラーメンやノーパン牛丼の店も始めちゃった。

みうら '90年代に流行った「ノーパンしゃぶしゃぶ」もその流れだけれど、違ったのは客が大人だったこと。学生や若いサラリーマンに流行ったノーパン喫茶が、今度はおっさんを中心に広がったわけです。

山本 俺はノーパン喫茶に黙って並んで待っている男どもを見て、権力に対する無言の抵抗のようなものを感じたね。「売春はいかん」と取り締まろうとするお上に、「捕まえられるものなら捕まえてみろ」と訴えていたような気がする。

みうら 既成のものに対する疑問が若者にあった頃だから、オヤジたちの行っているソープやストリップにも違和感があったんだと思います。ノーパン喫茶は風俗の中ではかなり異質。「ヌイてスッキリする」という風俗の延長線上にあったブームじゃない。風俗というよりも、完全にカルチャーでした。

イヴ たしかにみなさん行儀がよくて、すごいなと思いました。ただ、目つきだけは怖かったですけれど(笑)。

みうら 客も恥ずかしがっている体でやらないと、ノーパン喫茶は成立しませんから。だから個室のサービスが出てきた頃からノーパン喫茶が風俗になってしまい、ブームがしぼんでしまったような気がします。

山本 男にとっても、女にとっても、ノーパン喫茶が風俗のハードルを低くしたのは間違いない。風俗界における大発明だったんだよ。

イヴ ホント、色々なお客さんがいて、毎日楽しかった。『USA』をきっかけに、普通の女の子が味わえない充実した人生を歩むことができた。今でもそう思っています。

「週刊現代」2016年12月17日号より