ヒトが口にするものはぜんぶ毒!? 生体異物から見た生命のふしぎ

ふつうの食べものに含まれる危ない物質
小城 勝相

食の安全性について

ところで、食品の安全性を守り、中毒の発生を防ぐためには、科学だけでなく法律をはじめとする社会的なしくみ・制度も必要です。そのために、国会、厚生労働省、農林水産省、食品安全委員会、消費者庁など、国としての機関が整備されています。

しかし、食品は世界中で生産・取引されるため、一国だけで食の安全性を守ることは不可能です。そこで、世界保健機関(WHO)や国連食糧農業機関(FAO)、コーデックス委員会のような国際機関が設けられています。

これら国内外の諸機関は、どのような基準で食の安全性を守ろうとしているのでしょうか? そうした国際基準をどのように作成するのか――ここでも、中心的な役割を果たすのは中毒学です。

 

食の安全性については、「安全・安心」という言葉がよく使われます。安全性は科学的に評価できますが、「安心」は個々人の知識や感情、心理に左右されます。科学的な思考ができないために、ときには「ゼロリスク」を要求するような無意味な主張をする人を見かけることもあります。

食品は、「安全か/危険か」という二者択一の発想ではなく、科学的な、すなわち、量的な評価が必要です。

実は、現在の高度な分析機器を使えば、あらゆる食品、さらには空気からさえも、発がん物質を検出することができます。放射線は、宇宙から絶え間なく降り注いでくることはもちろん、身近な岩石やコンクリート、そして私たちの体内からも放出されています(「体内から」という意味は、私たちの体に、放射性元素であるカリウム40〈40K〉が含まれているからです。40Kは、必須元素であるカリウムに0.01%は必ず含まれていて、体内から完全に除去することはできません)。

このような前提で考えると、「含まれているかどうか」ではなく、「どの程度の量で、どの程度の影響が出るか」という量的な議論が必要になります。これもまた、中毒学の扱う領域の一つです。

2003(平成15)年に成立した食品安全基本法の第9条には、「消費者は、食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとする」と書かれています。つまり、私たち消費者は、食の安全性に関して、よく勉強するとともに理性的・科学的な意見を表明することが求められています。

そのためには、中毒に関する科学の知識が欠かせません。本書が、読者のみなさんにとって、そのような役割を果たしていただくための一助になれば幸いです。食の安全性を脅かす問題は、今後も次々と新たに発生することが間違いないのですから――。

著者 小城勝相(こじょう・しょうすけ)

一九四八年、大阪府生まれ。一九七〇年、京都大学工学部合成化学科卒業、同大大学院博士課程、九州大学薬学部奨励研究員、マサチューセッツ工科大学(MIT)博士研究員、京都大学医学部助手、兵庫教育大学助教授を経て、奈良女子大学教授、放送大学教授を歴任。現在、奈良女子大学名誉教授・放送大学客員教授。薬学博士。専門は中毒学(毒物による酸化ストレス)、栄養学(生活習慣病を起こす酸化ストレスの評価法とそれに対抗するビタミン類)、生物有機化学(生活習慣病に関わる分子の定量法、地球生命誕生におけるL‐アミノ酸の起源など)。
体の中の異物「毒」の科学
ふつうの食べものに含まれる危ない物質

小城勝相=著

発行年月日: 2016/12/20
ページ数: 288
シリーズ通巻番号: B1996

定価:本体  1080円(税別)

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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)