2015年ラグビーW杯で日本代表に歴史的な勝利をもたらしたエディー・ジョーンズ氏。その後イングランド代表HCに就任し、今年のテストマッチでは13選全勝という快挙を成し遂げた。
今や世界中が注目する名将が、成功するための心構えをまとめた『ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング』を上梓した。日本人の長所も短所も知り尽くしているジョーンズ氏が語る、今の日本人に最も足りないものとは?
昨年のラグビーW杯の後、私はたくさんの人から「日本人のラグビーチームでよく南アフリカなどの強豪チームに勝てましたね」と言われました。しかし、その質問自体が間違っています。彼らは、日本人だからこそ勝てたのです。
皆さんは気づいていないかもしれませんが、たとえ体格的に劣っていたとしても、日本人の強みを伸ばせば、十分に世界と戦えるチームになるのです。私はそのことを信じて、チームの強化にあたってきました。
今回私は、これまでのコーチ人生から学んだこと、日本で教えるうちに学んだことを1冊の本にまとめました。日本の皆さんへ、私が学んだことを伝えたいと思ったからです。
皆さんは、今行なっているビジネスや将来の夢などで、成功を収めたいと思いませんか? これは野暮な質問です。自分の人生に大きく関わることで、成功を願わない人などいないはず。
一方で、成功とは非常に難しいものだと思っていませんか? 皆さんの多くは、おそらくこう考えているのではないでしょうか。
「頑張っているのだけど、なかなか結果が出ない」
「本当の成功を収められるのは、運と才能に恵まれた人だけだ。どうせ自分には、無理」
そういう人は、成功が、雲の上にあるように感じているのだと思います。私にはそんな皆さんが、日本代表ヘッドコーチに就任し、初めて会った時の選手たちに重なります。
私は選手たちに、力強く言いました。
「君たちは、これから世界のトップテンに入る! そして、4年後のワールドカップには、必ず勝つ!」
しかし、選手たちは、白けた顔をしたまま、誰も同意してくれません。日本人は、とてもシャイです。私の大胆な提案に、恥ずかしがっているのかと思いましたが、どうもそうではありません。
尋ねるうち、彼らはようやく口を開き始めました。
「日本が世界の強豪チームに勝つなんて、絶対に無理です。日本は、ワールドカップで過去に1勝しかしたことがないんですよ。それも20年以上も昔です」
「日本人は、外国人に比べてずっと体が小さい。こればかりは、どうしようもありません。ラグビーは、体と体のぶつかり合うスポーツです。どう考えても、勝てるわけがありません」
中には、こんなことを言う選手もいました。
「日本人は農耕民族なんです。ラグビーは狩猟民族のスポーツです。そもそも日本人には、合わないんですよ」
これには、さすがの私も吹き出してしまいました。
このように日本人選手の、「自分たちは弱い」という思い込みは、非常に強固でした。私はまず、その意識を変えなければなりませんでした。日本人特有の強さとはなにかを彼らに知ってもらう必要があったのです。