任天堂「イノベーションのジレンマ」を打破する“捨て身”の生存戦略

復刻版ファミコンは売れているけれど…
加谷 珪一 プロフィール

従来製品の価値を破壊するかもしれない全く新しいイノベーションを目の前にした時、高収益で優良企業であればあるほど、新しいイノベーションを取り込めず、衰退してしまうという理論である。

 

優良企業は、市場をよく理解しており、顧客の要望もしっかりと吸収し、ある意味で完璧な製品を投入することができる。だがそうであるが故に、これを破壊しかねない新しいイノベーションに対しては消極的になってしまう。

従来の顧客基盤を生かした製品を投入し続ければ、当面は収益を確保できる。新しいイノベーションを取り込んでしまうと、せっかくのこうしたビジネス基盤を自ら破壊してしまうのだ。合理的に考えれば考えるほど、新しいイノベーションを取り込めなくなる。

任天堂はハードから脱却するのか? Photo by iStock

マーケティング企業に変身する?

任天堂はゲーム会社であり、コンテンツ企業ではない。したがって、同社がディズニーのように振る舞うというのは現実的にかなり難しいだろう。

だがポケモンGOのように、オープンなプラットフォームで、従来にはなかった形でゲーム・ビジネスを展開し、そこを基盤にキャラクターを開放していくという戦略は描けそうだ。

しかもポケモンGOのようなスマホ・ベースのゲームは、人々の行動履歴を使って販促と結びつけ、巨大なマーケティング・ツールとして活用できる可能性も秘めている。任天堂がキャラクタービジネスとゲームを基盤にしたITマーケティング企業に変身することは十分に可能だ。

だがそのためには、創業以来の伝統であるハードウェアと決別しなければならない。皮肉にも、復刻版商品である「ニンテンドークラシックミニ」は大ヒットとなっている。

顧客の声を素直に聞けば聞くほど、従来路線を継続した方が、低リスクで確実な収益を生み出すことができる。まさに任天堂は、イノベーションのジレンマに直面しているのかもしれない。

かつてIBMが同社の主力ブランドであったノートパソコンのThinkPadをレノボに売却したように、任天堂がハードウェア部門を外部の企業に売却し、現在保有している1兆円近くの資金(有価証券など含む)と合わせて、マーケティング・ビジネスへの転換を表明したとしたら、市場はどう反応するだろうか。

筆者は密かにその日を楽しみに待っている。