ジャニー喜多川が戦後すぐの日本にもたらし、54年の歳月をかけて築き上げたジャニーズ帝国。なぜ、日本人はこれほどまでに熱狂し、SMAPという「国民的アイドル」を生むまでにいたったのか? 新刊『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)の中から、SMAPが「国民的アイドル」に至るまでの論考を特別公開!
SMAP初のミリオンセラーは、「夜空ノムコウ」(1998)。
この曲はやはり、SMAPのひとつの到達点だ。
この歌が流れた当時に中学生だった筆者(1983年生まれ)は、それまでのSMAPの曲に比べると、穏やかな曲調の「夜空ノムコウ」にはあまりピンとこなかった。
この曲が刺さったのはむしろ、筆者より一世代うえの人たちかもしれない。例えば、1970年生まれの音楽ジャーナリストの宇野維正は「夜空ノムコウ」について、次のように振り返っている。
「夜空ノムコウ」は、引用部にあるような、「当時の20代の若者」のどのような部分に響いたのだろうか。
2007年、ラジオの放送で「夜空ノムコウ」を久々に耳にした。
社会学者の鈴木謙介(1976年生まれ)は、自身のラジオ番組『文化系トークラジオ Life』(TBSラジオ)で、「失われた10年~Lost Generation?」という特集を組んだとき、「失われた10年という言葉にぴったりの、その失われた感じっていうのを歌った大ヒット曲ですね」という言葉とともに、「夜空ノムコウ」をかけていた。
SMAPのメンバーは、筆者より少しうえの1970年代前半生まれである(香取のみ1977年生まれ)。
この世代は、一般的には団塊ジュニアと呼ばれる世代にあたるが、2000年代以降あたりから、「ロストジェネレーション(失われた世代)」と呼ばれるようになった。宇野維正も鈴木謙介も、大きく括れば「ロストジェネレーション」に入る。
「ロストジェネレーション」とは、基本的には、バブル崩壊後の就職氷河期を体験して、非正規雇用やフリーター、あるいは若年ホームレスにならざるをえなかったような世代を指している。
「ロストジェネレーション」の問題は、単なる景気の問題ではなく、個人のライフスタイルや生きかた、もっと言えば、実存に関わるものだ。
単純化して言うと「ロストジェネレーション」は、子どものときはバブルだったがいざ自分の就職の時期になるとバブルが崩壊していた、という体験をした世代である。
それは、バブル崩壊までの高度経済成長期に抱かれていたさまざまな人生モデルが、ことごとく不可能であることを突きつけられる、という体験でもある。
終身雇用、マイホーム、専業主婦、子どもに囲まれた幸せな暮らし。当たりまえのささやかな幸せだと思っていたものが、いかに困難なものであることか。
そのくせ、押しつけられる価値観は、いまだに高度経済成長期を前提にしたものだったりする。
「まだ、結婚しないのか」とか「そんな仕事についているのか」とか。
それまで疑いもなく信じてきたものが、途端に信じられなくなる。そんな体験をするのが、SMAPと同じ世代の「ロストジェネレーション」である。