2016.12.11
# エンタメ

作家・馳星周がどっぷりのめり込んだ「藤原不比等」とは何者か?

第17回ゲスト:馳星周さん(後編)
島地 勝彦 プロフィール

1400年前に、日本の国の形を決めた男

島地 作家馳星周がそこまでのめり込むんだから、一筋縄ではいかない人物なんでしょうね。

日野 名前だけは知ってますが、同じ藤原でも鎌足、道長に比べると知名度は高くないですよね。確か鎌足の子供だったような…。

 そう、次男。一般的な知名度は低いんだけど、不比等がいなかったら今の日本の形はなかったといえるくらい大きな存在なんです。なのに表舞台にはほとんど出て来ない。ちょっとミステリアスでもあり、そこに惹かれたんですね。

島地 表には出ないけど、実際は歴史を動かしていた影の権力者、か。これはおもしろそうだ。浅学な日野に、不比等の人となりをちょっと教えてもらえませんか。ちゃんと聞いておけよ、日野!

日野 自分だってほとんど知らないくせに。。

 大編集長は何でも知ってなくちゃいけないから大変なんだよ。ちなみに「大宝律令」の編纂の中心人物も不比等です。これは律(刑罰)、令(法律)に基づいた政治を行うためのもので、法治国家の原型ともいえます。同時に『日本書紀』『古事記』を編纂し、聖徳太子のような聖人を創造して、天皇家を浮世離れした存在、象徴に祀り上げたのも不比等だとする説があります。

法治国家、象徴天皇。つまり1400年も前に、不比等は今の日本と同じ国のあり方を描いていたんです。

島地 なるほどね。当然前から知ってましたけど、もっと興味がわいてきました。となると、藤原氏の栄華も不比等抜きには語れないわけですね。

 おっしゃる通りです。当時、天皇の后は皇族から選んでいましたが、女帝になる可能性がある以上、他の血を入れるわけにはいかないからです。ところが、不比等は自分の娘を聖武天皇の后とすることに成功します。以降、皇族以外で天皇の后になれるのは藤原氏の娘のみ、という時代が続く。

自分が表舞台に立つとか、権力を掌握して好き勝手やるとかより、もっとずっと長い射程で一族の繁栄を考えて、それこそ手練手管を駆使したんだと思います。

活字文化の危機を憂う

島地 うん、それは馳星周の新境地かもしれませんね。いまは本がなかなか売れない時代ですけど、直木賞も期待できるんじゃないですか。

 いやいや。でも、ほんと、スマートフォンの普及でさらに本が売れなくなっていますね。たまに「紙の本が売れなくてもいまは電子書籍が売れるでしょう」といわれることもありますけど、アホかと。

島地 紙の本を読まない人間が電子書籍を読むはずもないですからね。

 あれは、紙の本をちゃんと読んでいる人が、出張や旅行に出るとき、荷物を少なくするために使うものでしょう。つまり本が売れない世の中で、電子書籍が普及する道理がない。

もっと呆れるのは、たまに講演をすると「子供にいい本を読ませたい。どうしたらいいですか」とか質問してくる若い親がいます。そんなとき「お宅に本棚はありますか」と聞くと、ほとんどが「ありません」と答える。お先真っ暗ですよ。

日野 ん? 意味がちょっとわからなかったです。

島地 バカものが。家に本棚がない。つまり親が本を読まなかったら、子供に本を読む習慣がないのは当然、ということだよ。

 自分が読まないくせに、どうして子供に読ませたいと思うのか、理解できません。この方向に話が向くと、なんて民度の低い国になっちまったんだと、愚痴と諦念と、ときたま恫喝になってしまうので、ややこしくなりますよ。

島地 活字文化の危機は深刻ですね。まあ久しぶりに会えたことし、もう一本ずつシガーを吸って、続きはまたの機会にするとしましょう。

〈了〉

〔構成〕小野塚久男
〔写真〕峯竜也
〔撮影協力〕水楢佳寿久

馳星周(はせ・せいしゅう)
1965年、北海道生まれ。横浜市立大学卒業後、出版社勤務を経てフリーライターになる。96年『不夜城』で小説家デビュー。翌年、同作品で第18回吉川英治文学新人賞、98年『鎮魂歌(レクイエム)―不夜城Ⅱ』で第51回日本推理作家協会賞、99年『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。近著に『アンタッチャブル』『陽だまりの天使たち ソウルメイトⅡ』『神奈備』など。最新刊『比ぶ者なき』(中央公論社)が好評発売中!

著者: 開高健、島地勝彦
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1989年に刊行され、後に文庫化もされた「ジョーク対談集」の復刻版。序文をサントリークォータリー元編集長・谷浩志氏が執筆、連載当時の秘話を初めて明かす。

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