2016.12.11
# エンタメ

作家・馳星周がどっぷりのめり込んだ「藤原不比等」とは何者か?

第17回ゲスト:馳星周さん(後編)
島地 勝彦 プロフィール

古き佳き時代の味を忘れたくない

島地 懐古趣味ととられると心外なんだけど、シガーもウイスキーも、やっぱり古いほうがうまいのは間違いないでしょうね。

 それは同感です。1980年頃が一つの分岐点で、大量生産の始まりと同時にクオリティは間違いなく落ちています。均質になった。で、感動は薄れましたね。

10年以上前の話ですけど、某メーカーの仕事でスコットランドの蒸留所をまわったことがあります。どこへ行っても「伝統を受け継いで昔から製法は変えてません」というんだけど、ウソつけ!って思いました。麦芽はよそから買っているところが多いし、発酵槽だってステンレスだし、ちょっと寂しくなりました。

島地 ウイスキーづくりは、もともと小規模な工房でやっていたのに、今は工場化しているところが多いですからね。そんななかでも、少数派ながらも、いいものをつくろうと頑張っている人たちはいて、応援したいと思います。

 志だけは失わないでほしいですね。蒸留所をまわったとき、40年もの、50年ものの樽から直接飲ませてもらいましたが、それはもう、素晴らしくうまいわけです。で、ぐるっとまわって売店へ行くと、さっき飲んだやつがボトリングされて売ってるんですよ。

さっきは「これは貴重だから売れない」といってたくせに、「これが最後の5本だ」って。飲んだ後にそんなこといわれたら、もう買うしかないでしょう。結局その仕事、現地で買ったウイスキー代はギャラをはるかに超えていて、完全な赤字でした。

島地 ははは、うまい商売ですね。今度、伊勢丹のサロン・ド・シマジで、ちょっと特別なウイスキーを限定で売り出すから、よかったら飲みに来てくださいよ。

 今回のギャラ以上の値段だったら、また赤字になるじゃないですか(笑)。

作家魂に火をつけられた謎の存在

日野 犬はずっとバーニーズ・マウンテン・ドッグだったり、シガーはコイーバだったり、馳さんは「これはいい!」と思ったら長く付き合うタイプですよね。でも文体や、作品は広がりがあるような気がします。

島地 いきなり編集者ぶった質問をして、どうしたんだ。確かに『不夜城』の頃から比べれば幅は広がっているけど、ノワール小説というのは変わらないんじゃないかな。ずっと、人が誰でも持つ心の暗黒の部分に光をあてている気がします。

 その通りで、題材や文体は変えていても通奏低音は同じ。だから、どんな人でも主人公になるし、どんな国でも時代でも舞台にできます。

島地 時代小説でもそうですか?

 人間の心理、心の闇はいつの時代も根っこの部分では同じじゃないでしょうか。最近、藤原不比等を主人公にした『比ぶ者なき』(中央公論社)という作品を書いたんですが、飛鳥時代から奈良時代初期が舞台ですから、まともな資料がほとんど残ってないわけです。ポツポツと出来事が羅列されているくらい。でういう題材は逆に、作家の想像力を膨らませやすいともいえます。

島地 藤原不比等ですか。それはまた意外なところに目をつけましたね。もともと歴史好き、という話は聞いたことがなかったけれど。

 自分でも、この時代を舞台に小説を書くなんて思ってませんでしたね。きっかけは、かみさんが読んでいた新聞なんです。伊勢神宮の式年遷宮に関する特集で、たまたまテーブルの上に広げてあったんですよ。

何気なく見てみたら、「『日本書紀』も『古事記』も藤原不比等がねつ造した。聖徳太子も不比等のでっちあげだ」とかいう見出しが目に入って、「えー! 聖徳太子はいなかったのか!」と。

そこから藤原不比等が気になっちゃって、ちょっと調べてみたらものすごくおもしろくて、結局、2年間も歴史の勉強に費やしていました。