日本マイクロソフトはなぜ「女性離職率40%減」を実現できたか

ワークスタイル変革の極意
越川 慎司 プロフィール

ITだけでは働き方は変わらない

ただし、単にICTを導入して終わりではありません。「なぜワークスタイル変革をするのか?」という企業としてのビジョンを社員が理解しなければ変革は進まない、と考えました。

「ワークスタイル変革」を実行するにあたって、従業員のマインド、労働環境、人事制度など、変革を阻害するさまざまな要因が次々立ちはだかりました。

「ワークスタイル変革を阻害する要因」という図を見てください。

これは、2015年の「テレワーク週間」において、賛同法人企業各社にご協力いただいて行った意識調査の結果です。2011年に「ワークスタイル変革」に着手した当初の日本マイクロソフトでも、やはり同じような問題が次々噴出しました。日本人が多く勤める企業では、多かれ少なかれ、こうした問題に直面するものです。

日本マイクロソフトでは、これら「ワークスタイル変革」の阻害要因を、愚直に、ひとつずつ潰していったのです。

「ここで立ち止まるわけにはいかない」 

経営陣は本気でした。

まずはマネジメント層の意識改革に着手しました。そして、マネジメント層がみずから旗を振り、部門を横断して、若手社員を中心にタスクフォースをつくって、全社をあげて変革に取り組みました。

そうしたプロセスを経て、経営陣だけでなく、すべての従業員がマインドチェンジをしていきました。徐々に、しかし着実に。このアナログの改革プロセスが重要なのです。

その後、ITツールを拡充し、働きやすい環境を整えたことで、企業としての機動力は確実に上がりました。確実にビジネスの成長をもたらしているといえます。

日本マイクロソフトが推進した「ワークスタイル変革」は、その後どうなったか。結果を、「ワークスタイル変革推進の成果」の図にまとめました。変化は一朝一夕に起こりませんが、継続することにより、確実に変革は起きました。

リスクを解消するための評価制度

「ワークスタイル変革」を進めるにあたって、「テレワーク勤務制度」を取り入れることになりました。その際、いちばん気になったのは、社員が上司の見ていないところで怠けたり、サボったりしないだろうかということでした。

現在、「働き方改革」を進めようとしている日本企業だけでなく、かつては日本マイクロソフトも同じ悩みを抱えたのです。

 

ところが、実際に「ワークスタイル変革」が実現されたいま、遅刻をしたり、無断欠勤をしたりといった、部下の勤怠を気にするようなことはまったくありません。

私がかつて日本企業に勤務していたときには、毎日朝礼があって、ラジオ体操第二までやっていました。始業時に席にいなければ、すぐ上司の目にとまって怒られたものです。もちろんそういう規律も、チームで仕事をするうえでは必要になる場面もあるとは思います。

しかし、自宅や外出先で働いていても問題なく成果を残すことができ、かつ、チームもしっかり機能するのであれば、時間や場所にとらわれる必要はなくなるでしょう。そこには遅刻もなければ、無断欠勤もありません。行うべき業務を遂行したかしないか、成果をあげたかあげていないか、ただそれだけです。

日本マイクロソフトでは、「テレワーク勤務制度」を採用してからというもの、日本企業によくあるような、始業時間にオフィスにいないからといって懲罰の対象になることはもうありません。コアタイムもないので、エンジニアなどの特定業務に就いている従業員以外は、業務遂行に適切な場所で、自由な時間に働くことができています。

もちろん、従業員には自分の仕事に対する責任がついて回ります。「どう成果を残すか」と考えたとき、モラルの問題は避けて通れません。そこに登場するのが「評価制度」です。

日本マイクロソフトの場合、年度初めに、チームのメンバーは上司に「今年度は、このような定量的、または定性的な結果を残します」と宣言し、四半期ごとに振り返りの場を設けています。

それ以外にも、オンライン/オフライン問わず、2週間に1度、一対一のミーティングを実施しています。上司は、その都度、部下の業務の進捗状況や健康状態を確認しています。

確かに、オフィス以外で仕事をする社員の中には、モラル不足で、勤務時間内であるにもかかわらず、テレビの前で寝転んでいる輩がいるかもしれません。しかし、性悪説に立ってしまうと、自由と責任を与えることができなくなってしまいます。

リスクがあっても性善説をとり、評価制度で確実に管理していくことのほうがフェアであり、企業の生産性という観点から見ても健康的ではないか──それが私たちの考えです。