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アサヒビールがシェアNo.1を守り続けられる理由

「もぎたて」も大ヒット!
アサヒビール 平野伸一社長

アサヒビールが元気だ。今夏、チューハイ「もぎたて」が大ヒット。ビール類のシェアナンバーワンも堅持している。

同社を牽引するのは、豪放磊落で、いかにも「カリスマ社長」といった雰囲気の平野伸一氏(60歳)。現場主義を掲げ「社員との密接な関係が大切」と語る平野社長だが、同社に勤める若手の名を出すと「ああ、先日、社員食堂で隣だったよ」と答えるほど、現場を知り尽くしたトップだ。

前社長の衝撃の判断力

夕日ビール

「スーパードライ」発売前、当社の業績は低迷し「夕日ビール」と揶揄されるほどでした。そんな状況にあった'82年、元住友銀行の村井勉さんが社長に就任しました。入社4年目だった私はこの人事に「また外部の社長か」と醒めた気持ちでした。ですが、トップが変わると社が変わったのです。

まず、雲の上の存在だった社長が、工場や得意先はもちろん、私の支店にも来て、意見に耳を傾けてくれました。しかも、とにかく明るく元気! 次の樋口廣太郎社長は「売れ残って古くなったビールはすべて店頭から引き上げて破棄しろ」と、当時の我々にはありえない指示を出しました。

「古いビールが残っていたら鮮度が高いビールを売れない」という、今思えば当然の理由でした。大ヒット商品「スーパードライ」が出たのはその直後。大規模なマーケティングの勝利のように言われますが、根本にはトップによる改革があったのです。

全国の各支店や工場を訪ね、社員を鼓舞する。研究所訪問時の写真で、左から2人目が平野氏

NG

トップは不器用でいい、と思います。当社はRTD(そのまま飲用可能な缶チューハイなど)の分野が弱く、カクテルなどに活路を見出してきました。そのようななか、あえて「ど真ん中を攻めよう」と、最も市場規模が大きいレモン味、グレープフルーツ味のチューハイを開発しはじめたのです。

商品には「負い目」があったら負け。味の良さを数値化する「官能評価」で同じ市場のどの商品よりいい結果を出し「本当においしい」と自信を持てるものができなければ、営業もお客様をごまかすことになります。

開発期間は約3年の長きにわたりました。現場が持ってきた試作品にも「まだできる!」とNGを出し続けました。

その結果、担当者は「農園で果実をもいで24時間以内に搾った果汁を使う」など、材料の調達の分野まで変革し「もぎたて」を完成させたのです。トップの仕事は不器用に、妥協も温情もなく「やる!」と念じたことをやり遂げるのみです。

 

地味な部署が作ったヒット商品

遠き栄冠

大学生の時、日本拳法部に所属していました。友人に「格闘技の中で最強だぞ」と誘われ入部したのです。この競技、7人のチームが総当たりで戦って勝敗を決めるのですが、私たちの部は選手層が薄く、私を含む4人以外はまったく勝てなかったのです。選手権の時も、すべて4勝3敗で勝ち上がり、王者決定戦も4人が勝てば優勝できる、と確信していました。

ところが戦ってみると、4人の成績は3勝1分け。残りも負けて、優勝を逃してしまったのです。当時は「個人最強だったら、私たちの誰かだ」と悔しがったものですが……。でも、今思えば優勝できなくてよかった。なぜなら、組織の強さは、全員の力の総和だからです。

「スーパードライ」だって、マーケティング担当、中身の開発者、工場の担当など全員でつくったもの。悔しい敗戦からは、大きな学びがありました。