バーバリーを失った三陽商会の「落日」

経営陣が陥ったビジネスの罠
週刊現代 プロフィール

「三陽商会のバーバリー製品のなかでも、実質的に同社が開発した20〜30代向けの『バーバリー・ブルーレーベル』『同ブラックレーベル』は大きな売り上げを立てていた。その様子を見ていた経営幹部たちは『ブルーレーベル』といった名前だけで十分に消費者に訴えられると考えていたのです。

このブランドは、創業者の娘で、かつて役員も務めた長門道子さんやデザイナーの鶴博幸さんがつくりあげた大切な存在。

杉浦社長本人も、立ち上げの際には、社内で『ブランドは総合力だ』と説いて回り、普及に努めたといいます。思い入れの強いブランドだったからこそ、『バーバリーの名前がなくてもやっていける』と思ってしまったのではないか」(前出・三陽商会関係者)

こうしてバーバリー本体との交渉を行っていた小山文敬副社長(当時)は、「ブルーレーベル」「ブラックレーベル」について、バーバリー独特のチェック柄は使い続けていいという許可を得たものの、「バーバリー」の名前は使えない契約を結んだ。

そして、後継として新たに「ブルーレーベル・クレストブリッジ」「ブラックレーベル・クレストブリッジ」という、「バーバリー」の名前を取り去ったブランドを立ち上げたが、冒頭の数字が示す通り、業績は不振。これまで製品が売れていたのは、「バーバリー」という名称のおかげだった。

 

しかも、「クレストブリッジ」は三陽商会にとって足枷になっている可能性すらある。前出の現役社員が言う。

「『クレストブリッジ』はそれまでは行っていなかった発表会を始めるなど、会社は投資を行っていますが、本来別のブランドに投入すべき資源まで、こちらに割いてしまっているように思います」

負の遺産だけ残った

まさに「バーバリーの呪縛」である。今後、「バーバリー後」に向けてさらなる戦略を立てなければならない三陽商会だが、ほかにもバーバリーに頼っていたがゆえの弱みが少なくない。三陽商会の取引先の関係者が言う。

「バーバリーブランドを持っていた三陽さんは、服の『売り方』に関して、ほとんど百貨店任せでした。いちばん驚いたのは、マーケティングの『ペルソナ』を想定していなかったこと。つまり、購買層の年齢、性別、所得などのシミュレーションをしていなかったのです。良くも悪くも、『モノづくり』の会社なのでしょうが、百貨店がジリ貧の中、どうしていくのか……」

別の取引先関係者もこう語る。

「三陽さんは一時、コストを抑えるために52週MD(マーチャンダイジング)という、1週毎に商品生産計画を立てる手法を取り入れようと模索したことがありましたが、これを導入すると、どうしても製品の品質が下がってしまう。それを嫌って社員の一部が辞めたため、断念したことがありました。もちろん品質を高めるのはいいことですが、コストのことも考えなければならない段階にきているでしょう」

三陽商会は今後、バーバリーの後継となる「マッキントッシュ ロンドン」などのブランドを浸透させていかなければならないが、市場全体が縮小するなか、それは至難の業だ。デサントが売上高1000億円まで復活するには16年という期間を要した。

パートナーを失った三陽商会を待ち受けるのは、さらなる試練だ。

「週刊現代」2016年12月3日号より