バーバリーを失った三陽商会の「落日」

経営陣が陥ったビジネスの罠
週刊現代 プロフィール

伝統あるバーバリーのチェック柄をスカートに使い、本国から反発を受けながら爆発的なブームを起こしたのも、三陽商会だった。まさかこれだけの良きパートナーが裏切ることはない——。

それだけではない。中国市場という要素も、「バーバリーは裏切れないだろう」と三陽商会に思わせていた一因だ。前出の三陽商会関係者が言う。

「あまり知られていませんが、'10年、三陽商会が立ち上げたブランド『バーバリー・ブルーレーベル』などを香港で売り出したことがありましたが、アジア人の体格に合わせたデザインが受け、バカ売れしたのです。

それゆえ、中国という巨大市場に進出するうえで、バーバリーにとって三陽商会は最高のパートナーであるはずだと経営陣は思っていた」

だが、ビジネスの世界では、朝言っていたことが夜にはひっくり返る。結果的にバーバリー側は、三陽商会よりも「ブランド」を重視した。神戸大学大学院経営学研究科の保田隆明准教授が語る。

「バーバリーは近年、これまでの戦略を見直し、世界でブランドの統一感を強化していく方針に転換しました。中国人をはじめとする訪日観光客が増え、三陽商会がつくった『バーバリー製品』を見て『日本のバーバリーは、ほかの国のものと違う』といった声が聞かれるようになったためです。

ブランドの価値に敏感になっているバーバリーにとって、三陽商会は『バーバリー』の名を冠した製品を独自につくり、ブランドの一貫性を損なう、いわば『邪魔者』となってしまった」

〔PHOTO〕gettyimages

第二の誤算

実際、交渉時のバーバリー本体の最高経営責任者であるクリストファー・ベイリー氏は、ライセンス引き上げについてこう語っている。

「情報が一瞬の間に世界中を駆け巡ってしまう時代に、異なるリージョン(地域)で異なる製品やプロモーションが展開されていては、ブランドは一貫性を保てない。不可避の決断だった」

これを「バーバリーの裏切りだ」と断じるのはたやすい。しかし、バーバリーの売上高全体に占めるライセンス収入の割合はわずか2%弱に過ぎないことを考えれば、それは十分に予想できたことだ。同社の'16年上半期の業績は、ライセンス売上高は三陽商会を切り離したために54%減だったが、全体の売上高は4%減に留まっている。

しかも、過去にもアパレル業界では、同様のことが起きてきた。

「デサントは'98年末、アディダスにライセンスを引き上げられ、'98年に1029億円あった売上高は'01年に628億円まで落ち込んでしまいました」(証券アナリストの佐々木加奈氏)

三陽商会は、自分たちがその二の舞になる可能性を想定できたはずだ。

無論、三陽商会も、バーバリーが逃げ出す可能性を完全にゼロだと見積もっていたわけではなく、「もしも」のことを考えていた。しかし一方で彼らは、たとえ「バーバリー」の名を失ったとしても十分にやっていけると考えていた節がある。それが第二の誤算だった。