# 世界秩序 # アメリカ

トランプ以後の世界を生きる「羅針盤」となる本

ビジネスパーソン必読!
池田 純一 プロフィール

キッシンジャーがニクソンとともに実現させた中国との国交回復は「ニクソン・ショック」と呼ばれ、当時の世界を驚愕させた。

同じように、NATOを始めとする同盟関係の見直しや、中国を非難しロシアを讃えるトランプのコメントなどは、従来、アメリカが築いてきた国際秩序(世界秩序)を覆す、サプライズに溢れている。

そのようなトランプの構想に、一体キッシンジャーはどのような反応を示したのか、気になるところだ。

ロシアの「世界観」を知る

とりわけトランプが、プーチンのロシアに傾斜していることは誰もが気になるところだろう。10月に行われたヒラリー・クリントンとの第3回ディベートでは、ヒラリーを非難するためとはいえ、プーチンを賞賛するような発言もしていた。

 

キッシンジャーの流儀でロシアを見ようとするなら、ロシアないしはプーチンのもつ「世界観」を知らなければならないのだろうが、そのために役立ちそうなのが、チャールズ・クローヴァーの『ユーラシアニズム』と下斗米伸夫の『宗教・地政学から読むロシア』の2冊である。

正直なところ、この大部の2冊についての要約など困難なことなのであるが、それでも2冊に共通するところは、ロシアの目に見える現在の世界を理解する上で、キリスト教の一つである「正教(オーソドックス)」の考え方がどうやら重要であるということだ。

キリスト教というとカトリックとプロテスタントの二つがしばしば連想され、たとえばカトリックであればローマ法王の動向が伝えられる。プロテスタントについては、アメリカの共和党の支持母体の一つである宗教右派、とりわけ福音派(エヴァンジェリカル)がニュースで取り上げられたりする。しかし、正教についてはあまり聞くことはない。

むしろ、ロシアの動勢について記したこの2冊を通じて、正教の現在を知っていくというのも、現実的な対処方法なのかもしれない。

アメリカ大統領選とのからみでいえば、ロシアについては、終始、選挙活動へのハッキングによる干渉が取沙汰されていた。正確には、ロシアのハッカーというべきなのだろうが、ハッキングの対象が民主党の要人に偏っていたことは確かであり、トランプが勝利した今、選挙戦におけるハッキングを通じた国外勢力の干渉の是非、というテーマも今後は捨て置けないことになりそうだ。

実際、投票日直前になって最も心配されていたことは、投票過程へのハッキングによる介入、それもロシアの息がかかったハッカーの手による介入であった。それらへの憂慮が、まことしやかに語られていたのである。

キッシンジャーも『国際秩序』の終盤で、テクノロジーと国際秩序という文脈で、現代におけるサイバー攻撃をとりあげ、近未来の動向を簡単に展望している。といっても、彼ですら、その対応はこれから考えなければならないというものにとどまるのだが。

キッシンジャーの目には、サイバー攻撃を支えるITやインターネットの登場は、それまであった外交上の戦略やドクトリンを凌駕してしまっており、サイバースペースは過去の歴史の実例すべてを覆すものとして、いわば圧倒的に外部から襲来した存在として映っている。

結果として、かつてホッブズやルソーといった哲学者が頭の中でひねり出した「(国家登場以前の)自然状態」がサイバースペースを通じて実際に現出してしまったものと捉えている。

アメリカ国内の「第三世界」を知る

かようにキッシンジャーはサイバースペースを心底、驚きの目で見ている。

彼は同時に、そのようなサイバースペースを闊歩し利用しつくす技能を持つ人びとが、教育水準の高い先進国に偏っており、それゆえ未来への手の届かせ方に先進国と開発国、あるいは第一世界と第三世界との間に大きな開きが生じるであろうことを憂慮している。

だが今回の大統領選の結果を見れば、皮肉なことに、そうした教育が行き届かずITの時代に適応できない「第三世界」が、実は、当のアメリカの中にも厳然と存在し、彼らの不満がトランプを選出したというストーリーが描けてしまう。

最終的にトランプを大統領へと押し上げたのが、ワーキングクラスの白人男性であり、その中にはミシガン州を始めとする五大湖周辺の「ラストベルト(Rust Belt:鉄さび帯)」の人びとも含まれていたからだ。

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