ゼロからわかる「金利上昇」というリスク 〜いったい何が問題なの?

日銀と財務省が恐れていること
加谷 珪一 プロフィール

イールドカーブ・コントロールしかない

量的開始直後は、目論見通りインフレ期待が醸成され、株高と円安が進んだ。ところが物価の上昇は2014年をピークに鈍化。今年に入ってからはむしろマイナスとなる月が多くなり、どちらかというデフレに逆戻りしてしまった。

日銀としては追加緩和を行ってインフレ期待を高めたいところだが、国債買い入れはそろそろ物理的な限界点が近づきつつあるというのが現実だ。

政府が発行する国債の残高は約840兆円。一方、2016年9月30日時点での日銀の国債保有残高は約340兆円なので、数字上ではまだまだ国債を買い進める余裕がある。しかし、銀行は担保として設定している国債を自由に売ることはできないし、生保も将来、支払う保険料の原資として一定数の国債は保有しておく必要がある。

数字の上では国債は市場に残っているものの、実際に売りに出てくる保証はなく、日銀はそろそろ「弾切れ」を気にしなければならないタイミングに入っている。

日銀としては残り少なくなった弾はあまり撃ちたくない。一方で、立場上、量的緩和策を断念したと言うこともできない。そこで急浮上したのが、イールドカーブ・コントロールという新しい手法である。

これは、買い入れ額をコミットするという従来のやり方をあらため、購入額ではなく金利水準に軸足を置くという考え方に立脚している。これまでは、金利の水準に関係なく、年間80兆円分は必ず国債を買うことを市場に約束していた。

だがイールドカーブ・コントロールにおいては、金利が一定範囲を超えて上昇しない場合、日銀が国債を買わない可能性もある。

これは見方によっては、量的緩和策の事実上の撤退戦ということにもなるわけだが、この政策が成立するためには、ひとつの条件をクリアしている必要がある。それは、当分の間、長期金利が上昇しないことである。

金利が低いままであれば、無理に追加緩和をする必要はなく、その中でイールドカーブの傾きさえコントロールできれば銀行の収益も維持できる。

緩和的スタンスを維持しながら、事実上、追加緩和を回避することができるので、時間稼ぎをしたい日銀にとってはベストな選択肢と言っていい。実際、イールドカーブ・コントロールの導入後も、金利は安定して推移してきた。

〔PHOTO〕gettyimages

実弾としては使えない「指し値オペ」

だが、ここでトランプ大統領の誕生という「想定外」の事態が発生した。

トランプ氏は総額で5000億ドル(約55兆円)を超えるインフラ投資を公約として掲げており、これが実現した場合、米国の景気は拡大する可能性が高い。

しかもトランプ氏は減税という公約も掲げており、インフラ投資の財源は国債に頼らざるを得ない。景気拡大と国債増発が重なるので金利は上昇する可能性が高く、市場はすぐにこれに反応した。10年国債の利回りは選挙前の1.8%台から2.3%になっている。

 

米国の金利が上昇すると、日本の長期金利もそれにつられて上昇する可能性が高い。実際、米国ほどではないものの、日本の金利も上昇を開始し、とうとう15日には10年物の国債の金利がプラスに浮上した。

こうした事態を受け、日銀は市場価格よりも低い値段で国債の入札を行う「指し値オペ」を実施。応札した投資家はいなかったものの、日銀の意図は伝わり、一旦、金利の上昇は鈍化している。

指し値オペは、あくまで心理効果を狙う作戦であり、市場価格より安く指している限り実弾としての効果はない。市場価格より高く指してしまえば、日銀は無制限の買い入れをコミットすることになるので、こちらも現実的ではない。

今のところ金利が際限なく上がっていく状況ではないものの、今後、金利の上昇が加速するような事態となれば、結局、日銀は追加緩和に追い込まれる可能性もある。

では日銀や市場関係者はなぜこれほどまでに金利の上昇を懸念しているのだろうか。その理由は日本政府の財政問題と日銀のバランスシートにある。