ゼロからわかる「韓国政治の大混乱」〜なぜ朴槿惠は強気に転じたか

この泥沼状態は長期化する
木村 幹 プロフィール

とはいえ、もっとも厄介なのは「時間」である。

先に述べたように既に国会は特別検察官の設置を決め、現在その選任に入っている。しかし、この特別検察官の捜査には最長120日間が必要であり、仮にその捜査結果を待ってから弾劾決議を行うのであれば、そこまでには4ヵ月以上もの月日が必要になる。

他方、大統領官邸は通常の検察の捜査には応じないことを明らかにしているから、こちらのルートでの捜査がどの程度まで大統領の行為の「重大」な違法性を実証できるかは微妙である。大統領の行為の不法性が十分に実証されなければ弾劾案の決議に混乱が齎されるのみならず、憲法裁判所での審査に持ちこたえることも難しくなる。

さらに言えば、憲法裁判所における審査にも時間がかかる、2004年の盧武鉉弾劾の際には憲法裁判所は僅か2ヵ月で審査を終えているが、これは国会での弾劾案可決と憲法裁判所における審判の間に、たまたま国会議員選挙があった、という特殊事情があった。

つまり、当時の憲法裁判所は、国会議員選挙で世論が明白に弾劾を拒否したことを受けて、直ちに弾劾否決の審判結果を下したのである。他方、同じ憲法裁判所は2013年11月から行われた左翼政党、統合進歩党の解散請求審査に対しては、1年1ヵ月以上もの月日を費やしている。仮に大統領官邸が徹底抗戦に出た場合、審査にどれだけかかるかはわからない。

船長を失った船

忘れてはならないのは、朴槿惠大統領の任期が2018年2月までだということである。つまり、大統領官邸やその支持派は、国会における弾劾に関わる議論や、憲法裁判所の審判を単純に長期化させるだけで、弾劾を実質的に無意味なものとすることもできるのである。

 

そうでもなくても、来年12月に予定される大統領選挙に向けて、まもなく韓国は選挙シーズンに入る。各政党の予備選挙が開始される中、有力政治家の様々な思惑が飛び交い、大統領弾劾もその駆け引きの材料として利用されるだろう。

このような中、国会内における大統領支持派が一定の結束を維持することに成功したり、憲法裁判所における議論で大統領府が一定の裁判官の支持を集めたりして、弾劾を否決に持ち込むことができれば、大統領は正々堂々任期を全うすることになる。

結局、明らかなことは大統領制という巨大な城壁に守られた朴槿惠には、自らの地位を維持するための手段はまだたくさん用意されている、ということであり、それこそが極端な低支持率と大規模デモの発生にもかかわらず、大統領官邸が強硬策へ転じた理由となっている。

しかしながら同時に重要なのは、このような大統領官邸の強硬策への転換により、韓国の混乱が長期にわたる可能性が高くなっていることである。国会の支持を完全に失った大統領には、新たな施策を行う能力はなく、国政は当然停滞を強いられる。

国会で弾劾案が通過すれば大統領に代わって国務総理が大統領権限を代行するが、現在の国務総理もまた大統領に近い人物であり、自身も事件の疑惑の渦中に置かれている。

大統領が国会の意に沿った形で、「中立的な」国務総理を任命する意思を否定した今、緊急事態に備えた求心力を持つ国務総理がする可能性も少なくなっている。韓国は船長を失った船になりつつある。

しばらくのあいだ隣国では不安定な状況が続くことになりそうだ。