ゼロからわかる「韓国政治の大混乱」〜なぜ朴槿惠は強気に転じたか

この泥沼状態は長期化する
木村 幹 プロフィール

弾劾の手続きは簡単だが…

より具体的に見てみよう。

まず国会における弾劾はその手続きそのものは比較的容易である。

例えば、2004年に行われた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領に対する弾劾では、弾劾案提出から決議までがわずか3日でなされている。念のため、韓国国会における弾劾には、国会在籍議員過半数の議員による発議と、同じく3分の2以上のこの案に対する賛成が必要だ。

現段階において、全300議席の韓国の国会を構成するのは129議席を占める与党セヌリ党と、121議席を持つ野党第一党の共に民主党、さらには38議席を有する野党第二党の国民の党と、左派政党である6議席の正義党、および6人の無所属議員たちである。

このうち、野党三党は既に弾劾への賛成を決めているから、過半数を大きく超える165議席を持つ彼らにより弾劾案の発議が行われることは間違いない。問題は300議席の3分の2、つまり200議席の賛成を得るには、残り35議席が必要だということである。

この点を垣間見るには、一連の「崔順実事件」に関わる国会の状況を見ればよい。例えば11月17日に行われた崔順実事件を巡る特別検察官設置のための特別法案の採決に当たっては、与党セヌリ党から多くの欠席者が出たのみならず、出席議員の中でも10名が反対に票を投じ、14名が棄権した。

結果、同案は可決されたもののその賛成者は196名にしか達しなかった。大統領への捜査を巡る法案にさえ反対や棄権、欠席をした議員たちが、大統領の運命を握る弾劾案に賛成の票を投じるか否かは、依然として不透明だと言うしかない。

「崔順実事件」で大統領に続く形で支持率を低下させる与党セヌリ党内部では、大統領弾劾による早期の次期大統領選挙実施は自党に不利だ、という理解もあり、事態は流動的というしかない。

とはいえ、大変なのはこの後である。

 

すでに述べたように国会において弾劾案が通過すると、今度はこの弾劾案を憲法裁判所が審査することになる。韓国憲法はこの審査において少なくとも「6人の裁判官の賛成が必要」であることを定めている。ちなみに憲法裁判所の裁判官の定員は9名であるから、上の規定は定員の3分の2以上の賛成が必要であることを示している。

しかしここには見えないハードルがある。憲法裁判所裁判官には6年の任期があり、憲法裁判所長官を含む2名の裁判官の任期が来年の早い段階で終了する。この2名のうち1名は大統領推薦枠、もう1名は最高裁判所長官推薦枠であるが、共に就任までに国会における聴聞会を乗り切る必要がある。

また、最終的な任命権を握るのは大統領である以上、朴槿惠には故意にこの任命を引き延ばすことも可能である。その場合、弾劾審査は残る7名の憲法裁判所裁判官で行われる。

憲法が定めているのは「在職3分の2の裁判官の賛成」ではなく「6人の裁判官の賛成」であるから、ここでは全7名中6名の裁判官が弾劾に賛成しなければならないことになる。

さらに厄介なことに、この7名の中には朴槿惠大統領自身が推薦した2名と、与党セヌリ党が推薦した1名がおり、最高裁判所長官枠の残る2名も、同じ与党から選出された李明博前大統領の任命した保守的な最高裁長官から推薦された人物になっている。つまり、朴槿惠はこの与党色強い裁判官の中から2名を自らの側に引きつければ、弾劾審査に勝利できる。

この審査にはさらなる壁がある。それは2004年の盧武鉉弾劾事件の際に、憲法裁判所が弾劾に必要な違法行為の要件を狭く解釈したことである。つまり、当時の憲法裁判所は国会が大統領を弾劾する際には、一定の重大な違法行為が必要である、という審判を下している。

であればその弾劾に必要な違法行為はどの程度「重大」でなければならならず、今回の大統領の行為の違法性はどの程度「重大」なのか。大統領官邸側はこの点について激しく反論することになるだろう。