ゼロからわかる「韓国政治の大混乱」〜なぜ朴槿惠は強気に転じたか

この泥沼状態は長期化する
木村 幹 プロフィール

大統領制の特質

この点を考える上で重要なのは、韓国が採用する大統領制の特質である。

第一に、大統領制においては行政府の長である大統領の任期が保障されており、その罷免が容易ではないことである。

我が国が採用する議院内閣制と比べるとよくわかる。議院内閣制において、議会が内閣総理大臣や閣僚を罷免するには、不信任案が提出されそれが通過することが必要である。

この不信任案にはいかなる要件も必要とされない。つまり、議院内閣制においては首相や閣僚が議会の「信任」を有しているかどうかのみが重要であり、彼らがいかなる理由により、「信任」を獲得、あるいは喪失したかが問題になることはない。だからこそ、議院内閣制においては、たとえば閣僚の「失言」程度でも議会は簡単に不信任案を提出することができるのである。

しかしながら、大統領制における弾劾はそれほど容易ではない。

 

多くの国において議会が大統領を弾劾するためには大統領側の一定の「不法行為」が必要であり、そのことは韓国においても同様である。言い換えるなら、大統領側の「不法行為」が立証されない限り、議会は大統領を弾劾できない訳である。

他方、厄介なことにこれまた多くの国において大統領は任期期間中の不訴追特権や不逮捕特権を有しており、これまた韓国もその例外ではない。ゆえに大統領に対する検察の直接捜査は困難であり、当然直接捜査が困難である以上、大統領によりなされた行為の違法性を実証することは容易ではない。

大統領制においてこのように議会による大統領弾劾のハードルが極めて高く設定されているのは、議院内閣制においてよりも、立法、行政、司法の三権分立が厳格になされているからである。

議院内閣制における内閣総理大臣は、議会から選出され、その信任により行政を担当する存在であるから、任命権者である議会が信任を取り消すことにより、いつでも首相を罷免することができる。

対して、大統領制における大統領は、議会と同様に国民から直接選ばれる存在であり、その正統性は国民の意思に直接由来している。だからこそ、議会と大統領は同格であり、どちらか一方が他方を一方的に解任することはできない。

大統領制において議会による大統領弾劾に高いハードルが設けられているのは、大統領が議会に対する解散権を持たないことの見返りとして当然なのである。

さらに言えば、大統領制における大統領弾劾の手続きはこれで終わりではない。なぜなら、仮に憲法が議会による大統領への弾劾に一定の要件を求めていても、議会の側がこの要件を無視して弾劾を決議してしまう可能性があるからである。

したがって、この危険性を避ける為に、議会による大統領に対する弾劾の可否は司法部による審査によってその妥当性がチェックされねばならない。韓国においてはこの審査は、最高裁判所に当たる大法院と別途に設けられた憲法裁判所によって行われるべきことが憲法によって定められている。

つまり、この国において大統領が弾劾されるに至るまでには、国会における弾劾の手続きと憲法裁判所におけるこの弾劾の審査の二段階を経ねばならないことになる。

逆にいえば、大統領の側はこの二つの段階のうち、どちらかで勝利すれば自らへの弾劾を阻止することができる訳である。