卒業生の半分は行方不明!? 「東京藝大」に生きる愛すべき変人たち

元気が出る奇想天外エピソード
週刊現代 プロフィール

二宮氏の著書では、藝大入試問題の一例が紹介されている。

問題(1) 自分の仮面をつくりなさい
※総合実技2日目で、各自制作した仮面を装着してもらいます

問題(2) 解答用紙に、仮面を装着した時のつぶやきを100字以内で書きなさい
※総合実技2日目で係の者が読み上げます

「もちろん、美校ならデッサン力、音校なら演奏技術と、基礎的な部分には相当な能力が求められます。でも、藝大を受ける学生は、それはできて当たり前。基礎を踏まえたうえで、才能のある学生をとるために、奇抜な入試が行われている。

音楽系のある学科では、『自己表現』という課題があるそうですが、鉛筆と消しゴム、紙を与えられて、あとは『好きなことをしなさい』といわれるだけ。普通の人なら途方に暮れますよね」

こんな「正解のない問い」を乗り越えた藝大の学生たちは皆、強烈な個性を放つ。

二宮氏の著書から、そんな藝大生たちの奇想天外なエピソードの一端を紹介しよう。

抑え切れない衝動

・日本画を専攻しているある学生

街中の壁やシャッターにスプレーで落書きをする「グラフィティ」にハマり、幾度も補導され少年院に送致された「前科」を持つ。出所後に、夜の世界へ転じ、ホストクラブを経営。刺青に興味をもったことから、日本画の道へ入り、今は朝から晩まで絵を描き続ける日々を送る。

・音楽環境創造科のある学生

「今はどんなことをされてるんですか?」と問われて、「今は、楽器を荒川に沈めようと思ってます」と真顔で回答。曰く、「楽器を沈めて、錆びついたところで引き上げて、展示したり、演奏したりしたいけど、国土交通省から許可が下りないんですよね」

彼らのほかにも、「国際口笛大会」で優勝し、口笛をオーケストラに取り入れようと活動する学生や、郵便受けとうりふたつのゴミ箱を造り、それをゴミ捨て場に置いてひとり悦に入る学生など、変人レベルは凄まじいばかり。

 

とはいえ、一見、奇をてらっているだけのようにも見える彼らの芸術活動も、実はそれぞれのしっかりとした考えに基づいているのだと、二宮氏は言う。

「彼らの話を聞くと、音楽にしろ美術にしろ、『自分の未知の部分を自分のなかから掘り出したい』という衝動に突き動かされ、並外れた努力を重ねている。それぞれの方法で自らと向き合い、真摯に闘っているんです。

ブラジャー・ウーマンだって、これまでの人生で悪戦苦闘したすえに『自分をさらけ出して表現する』という覚悟にたどり着いた女性。彼女は『醜い身体を晒すのは罪』と言い切り、専攻の油絵制作の傍ら、徹底して身体を鍛え続けています」

外部の人間が、彼ら藝大生の強烈な自己表現を垣間見られる年に一度の機会が、毎年9月に行われる学園祭「藝祭」だ。

「藝祭は、発泡スチロールで作られた神輿のパレードから始まります。神輿は入学したばかりの1年生が授業の合間を縫って制作するのですが、これがものすごいクオリティ。

今年は豪快に潮を吹くクジラや、暴れまわるゴリラをモチーフにした神輿が出ましたが、質感や細部の完成度が素晴らしく、ハリウッドの怪獣映画顔負けの迫力があります。一生に一度は、ぜひ見に行って欲しい」

神輿のパレードを皮切りに、演奏会や展示会が構内のあちこちで展開される藝祭。最大の盛り上がりを見せるのは、夜更けに行われる「サンバパーティー」だ。ギュウギュウの熱気の観客席を前に、リオのサンバさながら本格的な衣装を身にまとったサンバ部の踊り子たちが、飛んだり跳ねたり所狭しと踊り明かす。

「そのうち、興奮した観客席の学生が大挙してステージに這い上がろうとするので、それを突き落とす係の学生がいるんです。みんな嬉しそうに這い上がっては、楽しそうに突き落とされるの繰り返し。あの光景は、カオスそのものです」

こうして、世間と隔絶された「最後の秘境」で、芸術家の卵としての4年間を駆け抜け、卒業していく藝大生たち。

しかし、どうしても心配してしまうのは、そんな彼らの進路だ。