山本美憂・総合格闘技「参戦の真相」~榊原マジックとは一体何なのか

【最強さんいらっしゃい】第4回
細田 マサシ

姉弟喧嘩は人生最初のMMAだった

美憂 で、あるとき、携帯にメッセージを送ったら、すぐ返信が来たんですよ。いつもは面倒臭がってすぐ返信よこさないくせに、そのときに限って。それでやりとりしていたら「じゃあいいよー」ってあっさり。多分、私が何度もいうから面倒臭くなったんじゃないかな(笑)。「でも、やるんなら日本に戻って来い」って言われて、すぐ帰国しまして。

──そうやって最大の難関がクリアされたんですね。ちなみに妹の聖子さんの反応はどうだったんですか?
美憂 聖子は反対でした。「あなたもいい加減そういう目先のことに動いてないで、じっくり腰を据えなさい」って(苦笑)。聖子は私と正反対で、本当に堅実なんです。どっちが姉かわからない。だから彼女の方が100%正常(笑)。でも彼女なりに心配して言ってくれたんで嬉しく思いましたね。とにかく、そうやって物事がババーッと動き出したわけです。

──ちなみに、今まで総合格闘技の興行とかよく観戦されていたと思うんですけど、自分がMMAファイターになるってイメージしたことはなかったですか?
美憂 全然なかったです。確かによく試合は観に行くんですが、自分とは違う世界のことだと思ってました。ただ、子供の頃に弟と兄弟げんかをしたとき、よく「アリ・イノキ状態」になってたんですよ。私がアリで弟が猪木(笑)。上から「おらおらおら」みたいなプレッシャーかけたりして、最終的に私がマウント取ってましたけど(笑)。

──おお! ってことは、山本家の姉弟喧嘩は、まさにMMAだったんですね!
美憂 そうかと言われればそうかもしれない(笑)。それでも、自分の選択肢としての総合格闘技っていうのは、まったく考えもしないものだったんです。

──で、KIDさんにOKをもらう時点で試合まで3か月切ってたんですね。
美憂 というか、実は榊原さんの試合オファーも、年末のものだとばかり思ってたんです(笑)。だから「まあ半年あるし、じっくりやろうか」くらいに思ってたら、榊原さんが「9月の大会に出てほしいんだけど」って。それを言われたのが7月の中旬くらいでしたかね。「また榊原マジック来たよ」みたいな(笑)。

──終始マジックに翻弄されっぱなしですね!
美憂 そのときも榊原さんが「デビュー戦だし、お試し程度の相手にするから」ってうまいこと言うんです。「それならいいか」って思っていたら、その後「相手はシュートボクシングのRENAで」って言われて「どこがお試しの相手だよ!」って(笑)。いきなり打撃のトップですよ! 弟も「RENAが相手?それは絶対ダメ」って言うし、私も一度は「無理です」って言ったんです。そしたら榊原さんがジムまで説得に来てですね……

──直接交渉ですか!
美憂 対戦相手に関しては弟に全権を委ねていたので「あんた、絶対断ってよ」って釘を刺したら、弟も「もちろんだよ」なんて言ってたんで、とりあえず任せたんです。で、榊原さんがジムに来まして、弟とヒソヒソ話してるんですよ。私はその間練習しつつ「あいつ、ちゃんと断ってくれてるかなあ」なんて思いながら、シャドーやったり、打ちこみやったりしてたら、弟がいきなり私のところに来て、「まあ、大丈夫っしょー!」って(笑)。それで、対戦相手が決まったんです。

──簡単に籠絡されたんだ(笑)。
美憂 「ちょっと待ちなさいよ、あんた!」って(笑)。何が「任せとけだよ」と。実はそういういきさつであの試合は決まったんです。今になって初めて明かしますが。

──初出しありがとうございます(笑)。しかし、その時点で2ヵ月切ってたとなると、急ピッチで準備に入ったんですね?
美憂 打撃の練習もしたんですけど、それは打ち合うとかそういうことではなくて、自分のレスリングに持ちこむための打撃ですよね。フェイントもそうだし、もちろんディフェンスも。それ以外はムエタイのコーチ相手に、相手の打撃に合わせてタックル入る練習とか、そういう類の練習をやっていました。期間が短いんで、いかに自分が持っている武器を活かすか、それしかないなあって。

──具体的な作戦はあったんですか?
美憂 とにかくテイクダウンして、上から圧をかけながらパウンド落とす。そうして相手を削って削って、最終的に勝つみたいな。いわゆる「川尻パターン」ですよね。その辺りの動作も含めて、入場直前まで練習していました。また、息子のアーセンが才賀紀左衛門選手に勝って、いい流れが来てたんで「いけるぞ」というのはありましたね。

──で、いよいよ試合ですけど、あの入場シーンは、MMAデビュー戦とは思えない、独特のたたずまいでしたね。
美憂 あれが一番の見せ場でしたね(笑)。ただ、前から弟の入場シーンだけはカッコイイってずっと思っていたし、ああいうのはレスリングの会場にはない演出じゃないですか。そこの部分にはすごく憧れがあったんです。だから入場テーマ曲も、弟が入場に使う曲の中で一番私が気に入っているやつにして、その辺のイメージは出来上がっていました。

──それで開始のゴングが鳴りました。「美憂キャット」と呼ばれた往年の素早いタックルがいきなり見られるかと思ったわけなんですが。
美憂 そこはやっぱり初めてなんで「慎重に行こう」となりまして、とりあえず最初はこっちから焦って動くなという指示でした。向こうも入って来ないし、こっちもしばらくは隙が生まれるまでは見て行こうという作戦で。それだったのに……

(C)RIZIN FF/Sachiko Hotaka

──何か異変があったんですか?
美憂 異変っていうか、これはあんまり言いたくないんですが、リングサイドにヴァンダレイ・シウバさんが座ってまして……

──いましたいました。あの日、木村ミノル選手のセコンドについたりしていましたよ。
美憂 そのシウバが「行け行け行け!」みたいに煽ってくるんですよ。で、こっちは、それが気になって気になって。「ねえ、ちょっと、ジャマしないでくれる」って(笑)。

──ガハハハ!
美憂 「ほらほらほら」みたいな感じで煽るんですよ! 本当にやめてほしいって思って。「あんた、今日試合じゃないんでしょ、静かに観てくんないぃ!?」とか「あのね、デビュー戦でセミファイナルってやったことあるぅ!?」とか、次々とフレーズが脳裏をよぎりまして(笑)。つまり、そのくらい冷静さを欠いてたってことなんですけどね。