原発推進勢力が画策する、原発訴訟「完全封じ込め」のウルトラC!?

元裁判官が明かす悲観的な未来
瀬木 比呂志 プロフィール

最高裁が用意しているウルトラC

――今回の『黒い巨塔』が、瀬木さんの一連の著作と並んで、司法のそうした傾向に対する強力な歯止めとなり、今予測されたような流れを変える力になってほしいと強く思うのですが、いかがですか?

瀬木 もちろん、少しでもその方向で貢献できればとは思います。

しかし、執筆活動が現実に対してすぐに目立った影響を与えた例は、日本でも世界でも、僕の知る限り、ごく限られています。それが事実だと思います。

僕は、著者にできることは、「種をまく」ことに尽きると思っています。それが芽を出すか、大きな樹木に育つかは、「神のみぞ知る」領域の事柄です。まさに、「ゴッド・オンリー・ノウズ」ですね。著者は、社会に対する影響としては、あまり大きなことや直接的なことを望むべきではないと思います。基本的には謙虚であるべきです。

――そうかもしれません。しかし、最高裁とその事務総局がどんなに用意周到に支配、統制を行っても、すべての裁判官を統制しきることは、難しいのではないでしょうか?

現に、これまでにもお話に出たように、統制に服さない裁判官も出ています。ことに、根拠に乏しい原発安全神話があった時代ならまだしも、福島第一原発事故のような大事故が現実に起き、多くの人々が被災し、家を追われたわけですから。

裁判官がみずから安全性を認めた原発が重大事故を起こしたら、歴史に汚名を残すことになると思うのです。私は、数は限られるとしても、「法の番人」と呼べるような裁判官の良心に期待したいのですが。

瀬木 確かに、完全な統制は難しいでしょう。勇気ある裁判官も、ことにいわゆる最高裁系エリート層以外の人々には、いるかもしれません。

しかし、『絶望の裁判所』や『ニッポンの裁判』で詳しく論じたとおり、最高裁は、2000年ころ以降、より強力な統制を、より陰湿なやり方で行うようになってきていますからね。

どんどんひずみが大きくなり、国民の信頼は急速に失われてきているのに、最高裁は、そういうことすらわからないで、あるいは無視して、なりふり構わずやり続ける。でも、マスメディアはみてみぬふり、というか、そもそも状況が十分にみえていない。そして、構造的、客観的な批判を行いうるような人間はわずか、実際にやるのはさらにわずか、そういう現状ですからね。

原発訴訟に関する動きについてさらにふれると、実は、現在のように、ことに民事訴訟では差止めが続く可能性があるという状況について、全面的に「打開」するウルトラCが検討されているという噂も、かなり以前からあるのです。

 

――今回のインタビューではそのことをぜひうかがいたかったのです。そんな方法が本当にあるんですか? 

瀬木 かなり以前から、法律専門家の間では議論されているのが、原発訴訟を専門に扱うような裁判所あるいは裁判所のセクションの設置です。

こう言うと荒唐無稽のように感じられるかもしれませんが、知的財産権訴訟を専門に扱う裁判所が、アメリカの圧力等もあって、超特急でつくられたという実例も、存在しますよね。

確かに、特許や意匠などの知的財産権訴訟は専門性が高いし、かなり特殊な考え方をしますから、経験の浅い裁判官ではなかなか対応しにくい。ある意味、実務上の必然性によって生まれたものという側面もあり、これはこれで理にかなっていると思います。

ところが、知的財産権のように特殊なものとはいえない原発訴訟についても、それと同じように、原発訴訟を専門に扱う裁判所やセクションをつくればいいという発想が、かなり以前から出ているのです。