全国で盛況の「アニメ聖地巡礼」、過度なビジネス化に振り切るリスク

これではファンを裏切ることに…
岡本 亮輔 プロフィール

表舞台/舞台裏という概念は、アニメ聖地巡礼にも大まかにあてはめられるかもしれない。アニメ作品そのものを表舞台とすれば、その裏側に迫ろうとするのが舞台訪問だ。

実際の風土のどのような特徴が作品に生かされているのか、現実と作品ではどのような編集が行われているのかを確かめることで作品をさらに深く味読するのである。作品世界と制作プロセスの自発的なハッキングこそがアニメ聖地巡礼の始まりだったと言って良いだろう。

アニメ聖地巡礼の先駆的事例である埼玉県の鷲宮では、地元と訪れたファンの交流という形で、さらに深い体験へと至っている。

鷲宮は4コマ漫画を原作とするテレビアニメ『らき☆すた』の舞台となった。オープニングで鷲宮神社の鳥居が含まれた絵が用いられるなどして、アニメ聖地になった。

当初は、住宅街に突然ファンが集まるようになり、作品のことを知らない地元の人々が困惑するといった事態もあったが、現在では、アニメ聖地巡礼による町おこしの先駆であり成功例とされている。

特定の日にはコスプレイヤーが神社境内で撮影することが認められたり、ファンの手作りの神輿が渡御する祭りなどがあり、現在では『らき☆すた』を知らないアニメファンも集まるようになっている。

 

聖地"ビジネス化"の危険性

最近では、夏に公開された『君の名は。』が大ヒットになり、その聖地巡礼が話題になっている。同作では、東京の男子高校生と地方の女子高生の二人が主役となる。

東京の舞台については、ラストシーンで使われた四谷の須賀神社や、デート・シーンで使われた六本木国立新美術館などの都心の聖地には、アクセスの良さもあって多くのファンが訪れている。

さらに、もう一つの地方の舞台については、東京のようにすべてが特定されているわけではないようだが、飛騨高山をはじめ、伊豆諸島の青ヶ島、新海誠監督の出身地の諏訪湖などがモチーフになったのではないかなど、さまざまな説が語られている。

作品世界の自発的ハッキングという従来通りのプロセスが展開していると言える。

こうしたアニメ聖地巡礼の盛況をうけて、アニメ聖地巡礼を「ビジネス化」しようとする動きが出てきた。近年では、各地でフィルム・コミッションが活発に活動し、積極的に誘致が行われるようになっている。

その中でも興味深いのが、一般社団法人アニメツーリズム協会の設立だ。JALやカドカワなど観光やコンテンツ産業に関わる企業が設立に関わっており、官民一体でアニメによる観光振興を行おうとしている。

アニメ聖地巡礼は、舞台になった場所であれば、通常の観光ルートからはずれていたり、特段に目を引く観光アトラクションがなくても、訪問者を集められる可能性がある。魅力的な観光起爆剤であることは間違いないだろう。観光資源を持たざる自治体でも、一発逆転できるチャンスがあるのだ。

同協会は、アニメ聖地を選定するための投票を呼びかけている。外国語での投票も可能になっており、増加する訪日外国人観光客もとり込もうとしている。

今年年末に締め切られる投票に基づいて88ヵ所の聖地が選定され、それらを結ぶ広域周遊観光ルートが整備される見込みである。

たしかに、外国人観光者にとって、一般のガイドブックには詳しい情報がないこともあるアニメ聖地へ行くためのインフラが整備されるのは良いことだろう。

これはライトなファンにとっても同様だ。自分で舞台を特定したり、現地を歩き回って舞台を探す手間が省けることで、格段に観光としての利便性は高まる。

しかし、アニメ聖地巡礼を過度に制度化・ビジネス化することには危険性もあるのではないだろうか。