7月に起きた相模原市障害者施設での殺傷事件を取り上げた報道番組について、19歳の大学生が東京新聞の『発言』欄への投稿で強い不満を述べていた。
番組の多くが「容疑者のひずみや異常さ」ばかりを言い立てて、「魔女狩りのようだと感じます」という前置きの後、「私たち若い世代は、勉強しても借金だらけ、就職できるかの不安、運よく就職しても働けど働けど親世代には追いつけず、生活はずっと不安定、結婚、子供なんてもってのほか、未来に希望はひとつもない。そんな状態なのに、どうして誰も助けてくれないのか。怒りが間違った方向に向く」
そうした根本問題を抜きにしては、「番組で取り上げる意味がないと思います」と結ばれていた。
藤田孝典著『貧困世代』によれば、「2012年のデーターでは、奨学金利用者は大学生の52・5%で」、親世代の平均収入の減少に比例して仕送りは減額し、半数以上の学生が利用せざるを得なくなっている。独立行政法人日本学生支援機構の奨学金制度は「給付型はなくて、すべて貸与型」だから、先の投稿者が「勉強しても借金だらけ」と嘆く所以なのだ。
「高学歴=高所得との図式が、すでに崩れはじめて」「親と同程度かそれよりもレベルの高い学校に入ったのに、職業に就けない」。従って「非正規職に就かざるを得ない。正規雇用でも賃金が低いなどの『名ばかり正社員』」。有利子貸与の奨学資金を20年に亘って返済し続けねばならず、「結婚、子供なんてもってのほか」となってしまう。
「どうして誰も助けてくれないのか」という悲痛な叫びに、政府も企業も応えようとはせず、「若者に対する支援と名のつくものは就労支援一辺倒で」、その就職先の多くが非正規職であるのにもかかわらず、政府は失敗が明白なアベノミクスの成果だとして就職率上昇を自賛する。
旧来の日本型年功序列、終身雇用のシステムが崩れて、企業は内部留保を貯め込むばかりで、研修体制、福利厚生の手を抜き、人件費を削ることが自己目的化して、労働者の家族形成を助けることはない。
多くの若者が家賃を払えず住む場所もなく、親もとに寄生するしかない貧困状態が、少子化や人口減少の直接の引き金になっているのは火を見るよりも明らかである。
ブラックバイトでの労働搾取で授業にも出られない学生生活、驚くべき授業料の高騰、世界一の若者の自殺率、大卒者よりも高卒者は更に不利な状況に置かれていることは自明であって、格差の固定化によって分厚い貧困層が形成され、それは世代を経て継承される。
読み進むうちに暗澹とならざるを得ない。「これ以上、若者たちを支援対象から除外し続けるのであれば、日本の国の存続に関わる」と著者は警告を発し、住宅の確保を市場原理に任すのではなく、福祉としての住宅政策をと訴えている。
「怒りが間違った方向に向く」と投稿者が指摘するように、相模原市障害者施設の殺傷事件は、容疑者が好んで口にするナチスの優生学思想の特異性にばかり囚われていては問題の背景を見誤ることになるだろう。