みうらじゅんと泉麻人が「グッときた」松本清張・不倫モノ映画ランキング

心理描写、映像、崖、全てがたまらない
みうらじゅん, 泉麻人

時代の制約の中で

みうら 『鬼畜』では、不倫でできた姉弟を本妻が蚊のたくさんいる土間で寝かせるシーンがイヤになるほど辛いね。それでもって、カネがないからって姉弟を捨てに行くんだけど、下の女の子は東京タワーに置き去りにしたのに、上の子を捨てるのは、なぜかまた「ヤセの断崖」なの。そんな遠くまで行けるカネ持ってんだったら、考えなおせないもんかね(笑)。

 

 不倫モノだと、清張のお気に入り女優・岩下志麻が『鬼畜』と入れ替わって不倫相手になる『影の車』も外せない。

みうら あの映画の少年のトラウマって、きっと清張が小倉時代に実際にみた風景が念頭にあるんですよ。おばあちゃんが裕福な家の家政婦で、その家に遊びに行ったときの話とかも小説にはあるでしょ。

 印刷工時代の話も、清張映画でよく出てくるよね。清張の原体験が元になっているから、妙に現実味がある。

みうら 今でもテレビでよく清張ドラマをやっているけど、現代のロケーションだと、どうしても終戦直後のドロドロした感じが出しにくいよね。

 それと、いまは地方もすぐ行けるから、映像化しても心理的なリアリティが薄い。清張映画は地方がよく出てくるのが魅力で、『張込み』なんて刑事が犯人を追いかけて2日くらいかけて九州に行く。「あー、はるばるこんな遠くまで来ちゃって……」という非日常感にワクワクさせられたものだけどね。

みうら 表現上の制約も多いから大変だね。『砂の器』の映画は、原作を超えた紛うことなき傑作なんだけど、最近のドラマ版は重要な描写を省かなきゃなんないから、どうしても、社会の不条理や犯人の苦しみを描き切れない。

 清張映画は、'57年に最初の作品である『顔』が公開されて、それから毎年映画化されていたんだけど、'84年の『彩り河』を最後に、'09年の『ゼロの焦点』のリメイク版まで、実に25年も作られていないんだよね。ま、TVドラマは相変わらず多いけど。

みうら こうして見ると、清張映画は、昭和後期の映画産業の隆盛と没落を映し出していたことにもなるな。

『週刊現代』2016年11月26日号より