病弱で運動音痴の少年でしたから、外で遊ぶのが苦手で、よく女の子たちとままごとをしてましたね。ただ運動が苦手な分、本が大好きで。二宮金次郎じゃないですけど、学校には、ランドセルを背負ってずっと本を読みながら通っていた。なかでも歴史物と小説が好きですね。だから、今回のベスト10もその類のものばかりです。
1位に挙げた『ヨーロッパ文化と日本文化』は、20年以上前に読みましたが、実に面白い。著者のルイス・フロイスはイエズス会の宣教師で、35年間暮らした日本を観察してはヨーロッパと比較しているんですが、日本と他の国があまりにも違うんです。
例えば「日本の殿様は、お酒にも恋にも花々にも酔う」と。つまり、酔うことが大好きなんだ、と書いている。日本人は何事においてもロジックではなく情緒が優先する、非常に女性的な民族なんだということが、この本を読んでよくわかりました。
またフロイスは、日本という国は根本的に情緒でものを判断するんだとも言っている。ロジックではなく、好きとか嫌いで政治が決まるという大変愚かな決定の仕方をしているとあり、これはまさに今の日本とまったく変わらない。
戦国時代にルイス・フロイスが言っていることと一致していて、時代は変わっても日本は進歩していないんです。日本は「改革」という言葉は好きだけど、改革することが大嫌いなんですよね。
2位の『南京大虐殺を記録した皇軍兵士たち』は「神風」というオペラを作る時に読みました。
リアルなストーリーを書くために戦争関連の本を千冊ぐらい買ったのですが、そのなかの一冊です。皇軍兵士たちの日記ですから、今日は何千人を機関銃で殺したとか、戦争の有りようが克明に書かれている。
この本を読むと、南京虐殺はあったんだな、と思います。やはりあったことはきちんと謝り、その後、一生懸命友好に努めることこそ必要なわけで、歴史を改変することを許しちゃいけないというのが僕の結論です。
4位は『撲殺されたモーツァルト』。今までモーツァルトの死については暗殺説や毒殺説などいろんな説があるのだけれど、実は彼は撲殺されたのだ、ということを膨大な資料を基に解明したものです。僕はこれ、正しいと思っています。
だって、死ぬ2週間前まで普通にしていたのが、突然死んでしまったんですよ。しかも、死因は未だにはっきりせず、遺体もどこにあるのかわからないんですから。
著者は、モーツァルトが浮気をした女弟子の夫・ホーフデーメルに散歩用のステッキで殴られ、頭骸骨を割られるという致命傷を被った結果、死に至ったと結論づけている。ホーフデーメルはモーツァルトの亡くなった翌日、宮廷から自殺を強要されて自ら命を絶つんですが、絶望と悔恨から最期の瞬間に美しい女房・マグダレーナの顔をメチャクチャに切りつけてしまうんだよね。
幸いこの女房は生き残るんだけど、こんな逸話が残されています。ベートーヴェンはモーツァルトの死の原因でもあるマグダレーナに演奏を乞われた際、「あの女の前では決して演奏したりはしない」と言ったとか。要するに当時は死の真相を周りはみんな知っていたわけで、サリエーリによる毒殺なんてあるはずがないんです。
5位の『恋の中国文明史』が面白い点は、知識人は人前で男女のことを語らないのが当たり前だと思っていた著者が、東大の教授たちが猥談に耽っている姿を垣間見て、ショックを受けたということ。日本人にとって猥談は日常なんです。なにせ『源氏物語』が生まれた国ですから。
現在でもいいとこのお嬢さんが売春してたり、驚くほど淫らな国ですが、僕はちっとも嘆いてない。むしろオープンでいいじゃないですか。
9位の『青春と変態』はぜひ単行本の表紙を見てもらいたい。何だかわかりますか? 白地に女性の陰毛なんです。撮影は著者の会田誠。文庫本がこの表紙じゃないのが残念。会田さんは美術家として超一流だけど、この本も最高です。
思春期真っ最中の男子高校生の性欲が手に取るようにわかりますよね。主人公は女の子のあそこが見たくて、スキー合宿に行った際に男女共同便所の地べたに這いつくばって覗きをやるんだけど、これだけいやらしい自らの体験をハッキリ書けるのは素晴らしいですよ。
僕には3万冊ぐらいの蔵書があるんですが、未だに買い癖が止まらなくて(笑)。本は僕にとって「一生の友」ですね。
(構成/大西展子)