『住友銀行秘史』は、出世とは、組織とはなにかを学ぶ絶好の教科書だ

「会社のために」が会社を滅ぼす
週刊現代 プロフィール

「会社のため」が一番危ない

山崎 クーデターで解任されるとき、「なぜだ」と漏らした岡田さんですか。

佐高 はい。彼が解任されてからしばらくして、あるセミナーの講演で講師が岡田と私の二人ということがあったんです。

山崎 それは面白いですね。

佐高 岡田は解任されたとはいえ当時まだホットな存在でしたが、控え室も私と一緒だったんです。彼は全盛期のときに記者が取材に来ると机に脚をあげて、「おう、今日は何の用だ」と言ったという有名な話がありました。しかし、その時の彼は控え室に一人で来ると、まだ若造の私に腰を低くして、「岡田でございます」と深々とお辞儀をしたんです。これがあの岡田かと、腰を抜かしました。

つまり、磯田も含めて日本のワンマンは張り子の虎なんです。周囲がさっと身を引けば、かわいそうなくらいにただの老人でしかない。

山崎 私はこないだ『住友銀行秘史』著者の國重惇史さんとお会いしたのですが、「本にも書いたけれど、すまじきものは宮仕えだね」と言っていました。確かにこの本には、そんな「すまじきもの」の具体例が凝縮されて詰まっている。

佐高 住銀役員たちはあれだけ保身と出世のために動き回りながら、結局、頭取に選ばれるのは下馬評になかった森川敏雄氏だったわけですからね。

 

山崎 ええ。森川さんはブラックなところにいなかったし、勢力争いの中にいなかった。だから、バブル期に国際部門に外れていた人がトップになる人事は住銀に限らず、当時はよく起こりました。人事なんて所詮はそんなものなんです。

佐高 本の中には國重さんが、「早めにとった夏休み」というくだりが出てきますよね。当時は土日も休まないモーレツサラリーマンばかりの時代だったから、休みを取るのを憚る人も多かったが、國重さんはそんな「社畜精神」とは一線を画していた。そういう人だからこそ、内部告発という勇気ある行動に踏み切れたのだと感じましたね。

山崎 「会社のため」というのは一見正しいようですが、実はこの標語のもとでは悪いこともできてしまうわけです。「会社のため」に経理を誤魔化す、とか。だからそこからいかに脱却して、社会のため、世の中のためと考えられるかどうかがいかに大事なのかということをこの本は教えてくれます。これからのビジネスマンは会社ではなくて、職業にプライドを持て、と。そういう風にこの本を読んでくれるといいなと思いました。

佐高 それが一番苦手なのが銀行マンなんですがね。

山崎 はい。だから私はおカネの運用が専門ですが、とにかく退職金が出たら銀行でだけは運用するなと言っていますよ。

さたか・まこと/'45年生まれ。評論家・東北公益文科大学客員教授。著書に『新装版 逆命利君』(講談社文庫)『原発文化人50人斬り』(毎日新聞社)『自民党と創価学会』(集英社新書)など
やまざき・はじめ/'58年生まれ。経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員。住友信託銀行などを経て現職。著書に『信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識』(講談社現代新書)など

「週刊現代」2016年11月19日号より