地方で自殺が急増した「意外な理由」〜日本社会の隠れたタブー

保険と自殺のキケンな関係
貞包 英之 プロフィール

自殺問題は本当に解決されたのか?

結論をいえば、こうして生命保険を媒介に、自殺を多額の金で償う社会的に黙認されたシステムが、些細な経済的な不況に反応しとくに中高年男性を中心に自殺を頻発させる社会をつくりだしてきた。

ただし現在、システムに対する問い直しが、進められていることも事実である。

 

生命保険各社は近年、自殺に対する支払いを退ける免責期間をかつての1年から延長し、さらに保険金を目的とした自殺の非道徳性を法廷に訴え始めている。加えて政府も連帯保証人制度を改め、少なくとも当事者以外の生命保険を担保とする融資の規制に乗り出している。

一部にはこうした動きの成果として、自殺は減ったといえるのだろう。2012年以降、3万人を割り込むなど、自殺の減少が顕著である。なかでも経済問題を原因とした自殺は、2003年の8897件をピークとして、(2007年以降特定される動機が3つにまでに増えたにもかかわらず)2012年には4144件にまで急減している。

ただしそれが手放しで喜べるかといえば、そうではない。ひとつには生命保険にかかわる自殺が、みえない「暗数」になっている可能性が疑えるためである。

免責期間を延長するなどした結果、自殺を「隠す」動機も強まっている。そのせいで自殺は、たとえば事故死に紛れ込まされているのではないか。それを実証することはたしかにむずかしいとしても、他方で自殺を「うつ」などの精神病の結果の「病死」として法廷に訴える事例が増加していることは事実である。

保障を欠いた生の増加

さらにそれとは別の角度から、貨幣に替えることさえできない自殺が増加しているという深刻な問題が生まれている可能性もある。

生命保険の普及率は近年、減少しているが、それは貨幣的な保障を遺族や周囲の者に残さない自殺の増加に直結する。

それがとくに顕著なのが、①就職難や非正規労働化で生命保険加入が減っている若年層に加え、②バブル崩壊以後の経済の沈滞で自営業や企業経営そのものが低調な地方においてである。

まず若者に関していえば、自殺が総体として減少している一方で自殺の下げ止まり、または増加がみられる。たとえば2003年から20012年まで20代の自殺は13.6%も増加しているが、問題はこの若年層で生命保険加入率が同時に下がっていることである。その結果、総体としてみると、貨幣的に償われる自殺は明らかに減っている。

地方に関しても類似した事態がみられる。まず20世紀末に自殺が急増した多くの地域で、今度は自殺者の急減がみられた。

なかでも経済問題を原因とした自殺の減少が顕著で、たとえば2003年から12年まで38.1%減と全都道府県で三番目に自殺率が減少した秋田では、経済生活問題で自殺した人は、204人から31人に急減している。

それは表面的には喜ばしくみえるとしても、裏面では地方のますますの貧困を意味している危険性がある。自営業的経済活動が停滞し、生命保険を担保とした融資が通用しなくなった/求められなくなった結果として、経済問題を原因とするとみられる自殺は減少しているのではないか。

この意味では自殺の減少という総体としては望ましくみえる現象も、手放しで喜ぶ訳にはいかない。それは他方で、自殺によって貨幣を得ることさえできずに、既存の経済体制から弾かれ、「保障のない」裸の生を生きる若者や地方の人々の姿を浮かび上がらせもするためである。