性犯罪は死刑、観光客も禁酒!? インドネシアを襲う「イスラム化」の波

ジョコウィ大統領の舵取りや如何に
大塚 智彦 プロフィール

イスラム過激派が生まれる土壌

インドネシアでは中東のイスラムテロ組織「イスラム国(IS)」の影響を受けた若者たちによるテロ事件も起きている。

今年1月14日にはジャカルタ中心部で爆弾が爆発、外国人や実行犯を含む8人が死亡した。その後もテロ組織への関与が疑われるメンバーの逮捕、アジト摘発が続いている。

 

インドネシアでは過去に、「アルカーイダ」と関連のあるイスラム過激派組織「ジェマ・イスラミア(JI)」などが関与した事件が多数起きている。

・バリ島爆弾テロ(2002年10月、日本人2人を含む202人死亡)
・ジャカルタの米国系ホテル近くでの爆弾テロ(2003年8月、12人死亡)
・ジャカルタのオーストラリア大使館前での爆弾テロ(2004年9月、10人死亡)
・バリ島レストランなど連続爆弾テロ(2005年10月、日本人1人を含む20人死亡)
・ジャカルタの米国資本ホテルなどで自爆テロ(2009年7月、7人死亡)
・中部ジャワ州ソロのキリスト教会で自爆テロ(2011年9月、1人死亡)
・ジャカルタの仏教寺院で爆弾テロ(2013年8月、3人負傷)
・中部スラウェシ州ポソで武装集団と警察が銃撃戦(2015年8月、2人死亡)

こうしたイスラム過激派組織やメンバー、武装組織による相次ぐテロに対し、歴代政権は対決姿勢を明確にしているが、依然としてテロ関連の事案が後を絶たないのが実情だ。

その背景として、広がる一方の経済格差や若年層を中心とする失業者の増加、中国系インドネシア人(華僑)つまり非イスラムによる富の独占などから生じる不満が停留して、そのはけ口として「イスラム過激派」やテロに結びついているといわれている。

2015年にインドネシア治安当局が発表した数字によれば、これまでにISの戦闘員として中東に渡ったインドネシア人は約700人で、一部が帰国してテロ活動を行う危険性があるとして警戒を強めている。

ASEANの大国はどこへ行く

少女への暴行事件をきっかけに、性犯罪の厳罰化、全面禁酒への動き、イスラム聖典への冒涜に端を発した大規模デモや暴動など、インドネシア社会を取り巻くモラル、規範の問題がこのところ相次いで噴出している。

一連の動きの底に横たわっているのはイスラム教の教義であり、インドネシア社会の「モラル見直し」の流れが図らずも「イスラム教のモラル実現」と密接に関連していることもまた現実である。

とはいえ、ASEANの大国インドネシアがマレーシアやブルネイなどのようなイスラム教を国教とするイスラム教国になる可能性はほとんどない、と断言できる。大半のインドネシア人イスラム教徒は穏健で争い事や対立を好まないイスラム教徒であり、インドネシアが独立以来死守してきた国是に反することにもなるからである。

イスラム教国とインドネシアのイスラム化は別の問題である。しかしながら、この「多様性」に富んだ国を統一し、国家として維持していくには「大多数」であるイスラム教徒の意向、心情を無視することは不可能だろう。

だからこそ、国際情勢や経済状況、国内世論など様々な要因を契機に、時に盛り上がり、沸き起こる強硬派イスラム教徒の要求をどこまで受け入れ、どこまで中和して薄め、折り合いをつけていくかが時の政権の大きな課題となる。

軍人としての経歴がないことで逆に国軍とのバランスのとれた距離感を保ち、庶民派宰相としての人気を背景に大統領に選ばれたジョコウィ大統領だけに、既存の政治家や華人が牛耳る財界、そして時に急進的になるイスラム勢力などを、いかに舵取りしていくかが常に「今、そこにある喫緊の課題として」問われている。

4日の大規模デモを受けて、5日から予定されていたオーストラリア訪問を急遽延期して、「アホック知事問題」に専念することを決めたのは、これが単なる辞任要求問題だけではないことを大統領自身が痛感した証拠である。

そうしてみると、ジョコウィ大統領の手腕と直感は、大国の指導者としてまだ十分相応しいといえるだろう。