性犯罪は死刑、観光客も禁酒!? インドネシアを襲う「イスラム化」の波

ジョコウィ大統領の舵取りや如何に
大塚 智彦 プロフィール

衝撃的な「禁酒法」の中身

現在インドネシア国会で審議が進む「禁酒法」の内容が公になったときも、大きな反響を呼んだ。

アルコール分が1%以上の酒類の生産だけでなく、その流通、消費すべてを全面的禁止するという内容。つまり生産できなくなるだけでなく、輸入も販売もそして飲むことすら(法律上は)不可能となる法律なのだ。

 

さらに驚くことに、この法案は、飲酒が宗教戒律上禁止されているイスラム教徒だけでなく、全インドネシア人に適用されることはおろか、インドネシアを訪れる外国人もその対象としているというのだ。要するに、観光でインドネシアを訪問した外国人観光客も一切、アルコールを飲めないことになる。

バリ島の観光客〔PHOTO〕gettyimages

これには世界的な観光地のバリ島の観光業界が素早く猛反発、「バリ島でビールが飲めなくなれば観光客は激減し、観光産業は壊滅的ダメージを受ける」というのだ。バリ島の観光業界だけではなく、ホテル業界、レストラン業界、酒造メーカー、飲料業界などが一斉に異論の声をあげる事態となっている。

この法案を提出したのはイスラム系の開発統一党(PPP)と福祉正義党(PKS)。同党議員らは「飲酒は宗教上の問題としてではなく、あくまで健康の問題」として、これまでにインドネシア国内で飲酒の結果死亡した人の事例をあげて法案提出の根拠としている。

しかし、マスコミなどの調査では、飲酒が原因で死亡した事例は2012年以降453件が報告されているものの、特にインドネシアが世界水準で際立っているわけではないという。さらに死亡例のほぼすべてが「オポロサン」と呼ばれる密造酒によるものであり、普通の飲酒が直ちに死亡につながる根拠はない、としている。

オポロサンの密造業者 〔PHOTO〕gettyimages

オポロサンはメタノール、医療用アルコールあるいは果実成分、殺虫剤成分など正体不明の物質で製造されているという。

インドネシアでは2015年にスーパーマーケットやミニマートなどでのアルコール類の販売が禁止され、失業者の飲酒による事件が相次いだパプア州でも2016年3月にアルコールの流通が禁止されるなど、禁酒に向けた動きが広がる傾向にあることは事実だ。

イスラム政党が禁酒を「宗教上の理由ではなく健康上の理由」としていることも、世俗主義国家であるインドネシアが、イスラム教の規範ではなく健康面を前面に出すことで、国民の理解と支持を得やすいようにと配慮しているものの、「結局はイスラムの規範を押し付けようとしているに過ぎない」(地元紙)との見方が有力だ。

「イスラム化」の落としどころ

こうした全面禁酒の動きに対し、ジョコウィ大統領や世俗主義を掲げる与党闘争民主党(PDIP)をはじめとする連立与党の中には「健康問題が理由である以上、表立って全面的な反対は難しい」との立場から「全面禁酒」ではなく「規制強化」で打開の道を探る動きが表面化している。

その方法として検討されているのが、①アルコール販売業者や店舗に免許制導入、②アルコール購入者に身分証提示を義務付ける、など。いわば全面禁酒というイスラム化を「中和」することで未成年の飲酒を防止し、どこでも誰もが購入できる現状を改善しようというものだ。

性犯罪に対する厳罰主義はイスラム教という宗教の枠を超えたものとして世論の支持もあり、比較的すんなり成立した。しかし、化学的去勢が果たして刑罰として適法なのか否かの議論が尽くされていないとの指摘もある。

インドネシア女性、特に未婚者や若妻などは、果物のパパイヤやパイナップルを食べない傾向が強い。あまりその理由を明確にはしたがらないが、どうやら、母親などに幼少時から「はしたない果物」と教え込まれていることが原因のようだ。

科学的な根拠があるのかどうかは全くもって不明だが、「パパイヤやパイナップルの成分には膣内を湿らす効果があり、扇情的になりやすい」という迷信が信じられているようだ。

話が逸れたが、性欲を抑制することに敏感で神経質なイスラム教徒のこのような感覚からして、化学的去勢が果たして「正しい方法なのか」という議論がまだ尽くされていないということである。