性犯罪は死刑、観光客も禁酒!? インドネシアを襲う「イスラム化」の波

ジョコウィ大統領の舵取りや如何に
大塚 智彦 プロフィール

死刑、去勢を含む性犯罪の厳罰化

インドネシア国会は今年10月、未成年を対象にした性犯罪事件の容疑者に対して、より厳罰を科す法案を賛成多数で可決した。

新たな法案では、未成年が被害者となる性犯罪に対しては最低でも禁固10年以上の実刑で、最高刑は死刑となる。さらに、必要に応じて薬物を使用した化学的去勢(ホルモン剤投入による性的衝動、性的行動の抑制)も刑罰に加えられることになった。犯罪者が成人の場合には、情報公開や電子装置(GPS)を装着させて追跡を可能とするなど再犯抑止のための社会的制裁も含まれている。

今年4月2日にスマトラ島ブンクル州ルジャン・ルボン郡の村で、中学生2年生の少女(14歳)が、未成年を含む少年ら14人のグループに集団で暴行を受けた後殺害されるという痛ましい事件が発生した。少女の遺体が裸で木に縛り付けられていたことなどから地元マスコミが「異様で悲惨な事件」として大きく報じ、全国的な関心を呼ぶ事件となった。

事態を重視したジョコウィ大統領は自身のツイッターで「犯人を厳しく処罰し、子供と女性を守らなければならない」と哀悼と厳罰化への意思を表明した。女性児童大臣や社会大臣といった閣僚が犠牲者の両親を訪問する様子も大きく報道された。

 

さらに大統領は5月、「未成年者保護のため性犯罪者への罰則強化」という大統領令を出した。この大統領令に準じる形で、強姦罪など性犯罪関連の刑法見直しが国会で行われていたわけだ。

コフィファ社会相は犯行に及んだグループの大半が飲酒したうえで犯行に及んでいたことも重視し、「未成年の飲酒や携帯電話によるポルノサイト閲覧が事件に影響を与えている可能性が否定できない」として、飲酒やポルノサイトに対する法規制強化の必要性も訴えた。

インドネシアではポルノを含む映像、写真は厳しく制限されており、雑誌や書籍、DVD、ネットなどは常に監視され、制限を受けている。ネットのアダルトサイトへの接続は遮断されているが、次々と誕生する新手の業者に監視と規制が追いついていない。特に携帯電話を通じたアクセスでは若者がポルノサイトなどの有害映像を見ることが可能となっている。

日本の雑誌もアトランダムな検閲を受けており、土俵上の大相撲力士の胸部がマジックで塗りつぶされるという笑い話もある。

こうした性に対する規制にもイスラム教のモラル、規範が色濃く影響している。細かいところでは、人前で肌を見せること、婚前交渉、公衆の面前でのキスなども生活習慣としてインドネシア人の心理に刻み込まれた禁忌となっている。

日常生活に浸透するイスラム教

インドネシアの首都ジャカルタ中心部の目抜き通りにマクドナルドがある。周囲がガラス張りの同店は、通りの車両や通行人から店内で食事をする人々の様子が手に取るようにわかる。

ところがイスラム教の大事な行事である「プアサ(日の出から日没まで一切の飲食を絶つ)」の時期になると、このマクドナルドは周囲を白いカーテンで蔽い、外から内部の様子が見られないようになる。これは非イスラム教徒が内部で日中飲食する様子を断食中のイスラム教徒にみせないという「配慮」だと説明されている。

しかし、実態はというと、「こっそり飲食しているイスラム教徒を隠す意味もある」と言われている。サウジアラビアの聖地メッカから距離が遠くなればなるほど「緩やかになる」とさえいわれるイスラム教。インドネシアの首都ジャカルタでは頭部を蔽う「ヒジャブ」を被った女性は決して多くはない。

ところがインドネシア最北西部、つまり国内で最もメッカに地理的に近い、スマトラ島アチェ州には厳格なイスラム法が存在する。イスラム教徒の女性は例外なくヒジャブで頭部を蔽い、非イスラム教徒の女性も極端に肌を露出させる服装を避けている。不義密通や不純異性交遊などは女性でも公開でむち打ち刑に処され、その様子がマスコミで報じられるほどだ。

アチェのモスクで祈りを捧げる女性たち〔PHOTO〕gettyimages

断食に関して加えれば、こんな例もある。

ジャカルタ中心部には日本人駐在員や日本人観光客が多く訪れる「日本人街」の「ブロックM」と呼ばれる一角がある。日本食レストラン、居酒屋、そして日本人相手のカラオケ店が数多く並ぶブロックMは、普段は深夜まで賑わっているが、断食の期間中は様相を異にする。閉店ないし早めの営業終了、表立った酒類の提供自粛などで断食への配慮を示さないと、白装束に身を包んだ急進派イスラム教集団が押しかけて抗議されかねないのだ。

イスラム教国ではないものの、ことほどさようにイスラム教はインドネシア人の生活の中に深く深く浸透している実態がある。