能年玲奈が「のん」になって得たものと失ったもの

「ザ芸能界 TVが映さない真実」第5回
田崎 健太 プロフィール

人気は空気のようなもの

音事協発行の『音事協50年の歩み』の中では、欧米のショービジネスと日本の芸能界の根本的な差異に触れている。

〈欧米におけるアーティストのマネジメント・システムでは、個人事業者であるアーティストがビジネスを推進するためにパーソナル・マネージャーを雇用し、エージェント、ミュージック・アトニー(弁護士)、ビジネス・マネジャー(会計士)、パブリシストなどのビジネス・アドバイザーからなるチームを作り、その管理をパーソナル・マネージャーに任せてビジネスを遂行している〉

対して〈アーティストの発掘・育成からスター化までを担うプロダクションによるマネジメント・システムは日本固有のものである〉と規定した上で、こう続ける。

〈アーティストが才能や個性、実演をプロダクションに提供し、プロダクションはそれらに労力・時間・資金・そして愛情を投入してアーティストの価値を高め、商業的利用を図る仕組みとなっている〉(強調は筆者)

敢えて「愛情」という言葉を使用しているところに、音事協の考えが見てとれる。

前号では、レプロが能年を育てるために数千万円もの投資を行い、社長の本間憲の「能年を売れ」という指示のもと、会社全体で売り込みを掛けたと書いた。

レプロの他、ジャニーズ事務所など日本のプロダクションは、マネジメント組織であると同時に、タレント育成機関の役割も担っている。能年問題のもう一つの論点は、タレントの育成コストとそのリスクを誰が負担するのか、ということでもある。

俳優、歌手、コメディアン、司会業、モデルなどの明確な特殊技能に基づき、契約関係で動く欧米のショービジネス。

対して日本の芸能界には、何が他人より突出しているのか分からない「タレント」が闊歩している。曖昧な存在だからこそ、事務所の力が介在し続けてきた。

ホリプロの創業者、堀威夫に自らの仕事をどう定義するのかと問うたとき、彼はこう答えた。

「空気を売っているんだ。人気とか良くわからないものを売っている。形はないんだよ。でも空気がないと人間は死んじゃうんだよ」

能年が女優としての輝きを持っていることは間違いない。それは事務所の力によって底上げされたものだったのか、どうか――。

「のん」と名乗るようになった彼女には、これまでと違い、事務所からの後押しは期待できない。それどころか逆風にさらされることだろう。つまり、彼女の「特殊技能」がこれまで以上に問われるということだ。

(→第6回はこちら

「週刊現代」2016年11月12日号より