能年玲奈が「のん」になって得たものと失ったもの

「ザ芸能界 TVが映さない真実」第5回
田崎 健太 プロフィール

しかし、レプロとの契約終了後の今年7月、能年は「のん」と改名した。

「繰り返しになりますが、本名を使うな、なんて馬鹿なことをこちらが主張するはずがない。あえて名前を変えることで、われわれに『悪徳芸能事務所』という印象をつけて、悲劇のヒロインを演じているように思える」(レプロ担当者)

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「口約束」が大切な世界

改名について、能年側の星野弁護士はこう説明する。

「契約終了の直前になって、レプロが送ってきた『契約期間を15ヵ月延長する』という通知に対し、『法的根拠がない。規定に従って、契約は6月末で終了する』と返答したところ、『契約期間の終了後も、能年という名前は使えない』と先方が書いてきたのです。

もちろん、名前に関する規定の存在は我々もわかっていました。しかし、その有効性には問題がある。契約終了後も『能年玲奈』の名前を使えば、レプロ側はクレームをつけてくるでしょうし、もし裁判になれば関係者にも迷惑がかかる。だから、最初からそれには乗らないという判断をしました」

つまり、自主的な改名である。星野が続ける。

「レプロは大きなプロダクションです。係争になると、のんの今後の芸能活動や、スタッフとの関係上、目に見えない障害となる。彼女の将来を考えて改名を選んだのです。

過去の報道ではいろいろと書き立てられましたが、のんは洗脳などされていません。契約期間中、『仕事がもらえなくなる可能性があるよ』とアドバイスした時にも、『2年間待ちます』としっかり答えていました。

この件は、単に契約で定められた2年の延長期間が満了したということで、我々は一方的な独立騒動ではないと考えている。レプロとの契約は今年6月末に終わっています。先方は現在も『交渉中だ』と主張していますが、実際にはその後、一切連絡は受けていません」

今もレプロのホームページには「能年玲奈」の名前が所属アーティストに入っている。前述のようにレプロ側が、個人事務所設立以降の15ヵ月は契約不履行期間であると主張しているからだ。

現在、芸能界には、能年玲奈と「のん」、2人が存在している――。

能年問題は、契約書という「制定法」と、芸能界の「慣習法」のせめぎ合いでもあった。

あるテレビ局幹部は、こう教えてくれた。

「テレビの世界では、口約束は守らなくても許される。しかし、芸能界では口約束を守らなければ、関係各所に話が回って仕事ができなくなる」

 

明文化された契約書以上に、信頼関係が重視される。芸能界のしきたりという「慣習法」が支配している世界とも言える。

能年側の星野弁護士は、元々経済事案を専門としており、本人も認めるように芸能界に通暁した法律家ではない。そして個人事務所設立という法的な瑕疵はあったものの、あくまでも契約書にのっとって、契約期間中はビジネスを行うようにレプロへ要求した。

一方、レプロはビジネス以前に事務所との信頼関係の回復を求め、一対一での話し合いを望んだ。両者が嚙み合うはずもなかった。