怪しすぎる「不動産詐欺」〜渋谷の土地取引、消えた6億5000万円

「地面師」という闇の住人
森功

警察が本気になった

話をAのケースに戻す。本人だと認証する公正証書まで作成した巧妙な地面師詐欺。だが、犯人グループは小さなミスを犯している。Aの話。

「実は取引にあたり事前にこちらに送られていた印鑑証明書のコピーでは、呉の生年月日がパスポートにある大正13年ではなく、15年になっていた。だが、司法書士はそれを単なる錯誤だとしてやり過ごしてしまったのです」

その時点で印鑑証明書やパスポートの偽造に気付いていれば、詐欺に遭うことはなかったかもしれない。が、すべてはあとの祭りだ。

Aは昨年9月10日、諸永総合法律事務所の吉永に指定されるがまま、富ヶ谷の土地購入代金6億5000万円を銀行口座に振り込んだ。口座の名義は諸永事務所だ。

その後、いざ法務局に所有権移転の登記申請をすると、印鑑証明書の偽造が発覚。むろんAは取引窓口である諸永総合法律事務所の吉永を問い詰めた。が、一向に要領を得ない。

 

「その時点でも、諸永事務所の吉永は『印鑑登録が変更されている可能性がある』なんて言い訳をしていたけど、信用できない。

『呉さんは築地の聖路加レジデンスにいる。あそこは入居するのに何億円も保証金が必要だから、本人に間違いない』と彼は言い張っていました。しかし病院に問い合わせてみると、案の定。呉なんて人間は入居していませんでした。

もちろん吉永にすぐに呉さんに連絡をとるよう迫りました。『諸永事務所は呉さんの代理人なのに連絡一つとれないのか』と詰め寄ると、彼は『いつも呉の運転手の山口を通じて連絡しているからつながらない』なんて調子なのです」

このとき山口は暴行事件で築地警察署に逮捕されていた。警察署なら逃げられない、とAたちは面会にも行ったが、断られて会えずじまいだった。

当然のごとくAたちは、警察に駆け込んだ。最初は呉の住所のあった吉祥寺を管轄する武蔵野警察署に相談し、12月に入ってからは、神田の万世橋警察署に被害を届け出た。そうして山口やニセの呉、さらに諸永事務所の吉永らに対し、刑事告訴に踏み切る。

またAは今年1月、事務所の責任者である弁護士の諸永に対しても6億5000万円の損害賠償請求訴訟を起こし、第二東京弁護士会に懲戒処分の申し立てをおこなった。Aが言う。

「警察はけっこうやる気を出して動いてくれました。武蔵野署では、ひょっとしたら本物の呉さんは殺されているのではないか、と疑い、本籍のある台湾にまで出向き、向こうで会って呉さんの生死を確かめたそうです。

呉さんは今は日本におらず、台湾暮らし。犯人たちはそれを知ったうえで本人に成りすましたのでしょう。日本に土地を持っている外国人が祖国に戻れば、奴らの成りすましのネタになるわけです」

本物の呉如増は、偽パスポートの写真とは似ても似つかない老人だという。ここから警察も現代版の地面師詐欺として捜査を本格化させた。目下、警視庁捜査2課に協力を要請し、万世橋署で合同捜査を展開中だ。

疑惑の弁護士が語る

さて、詐欺の舞台となった諸永総合法律事務所の事務員の吉永は、いかように弁明するのか。

「言いたいことはたくさんあるんですよ。でも、この件は民事裁判にもなっているし、弁護士事務所への懲戒請求もある。どうコメントを使われるかわからないので、答えられませんな。損害賠償とか、弁護士会の懲戒問題は、そこに何らかの過失があったかどうか、そこが争点になるから」

吉永は逃げを打ちながら、こう返答した。

「刑事告訴したといっても、それで警察が動くかどうかは別問題なんでね。私たちは今回、詐欺に加担したとか、そういうことはない。法律的にいう意思や故意はまったくないわけですよ」

つまるところ、詐欺という事実があっても、そこに加担してはいないと言いたいに違いない。そもそも吉永は山口とどう知り合ったのか。

「彼とは富ヶ谷とは別の物件の取引で知り合ったんです。そのときの売買は、事前にダメになった。弁護士事務所として山口に対する守秘義務や信義があるし、いろんな話がつながっていっちゃう可能性もあるので、詳しくは言えませんが、要は買い手側にファイナンスがつかず、お金ができなかったのです」

話を総合すると、吉永と山口は一度試みた不動産取引に失敗し、そのあと今度の南平台や富ヶ谷の取引で動くようになったことになる。やはりかなり怪しい関係と言わざるをえない。最初の段階で、山口の話に怪しさは感じなかったのか。

「だから、そういう話をしていくと、今度は、山口が悪いとか、いろんな話になりかねない。そこは当然評価を伴うしね。Aに訴えられている裁判でも、山口には証人になってもらわなければならないし、陳述書も提出してもらわなければならないから、今の段階で申し上げられることはない」