泉田裕彦・前新潟県知事が明かす「不出馬の真相」

ついに重い口を開いた
河野 正一郎 プロフィール

国税が調査していた?

この周辺者によると、調査された痕跡があるのは、泉田氏のカナダの口座だという。通産省(当時)の官僚だった泉田氏は1993~94年にカナダの大学の客員研究員を務めた。通産省はこの大学と2~3年ごとに人事交流をしており、泉田氏のほかにも通産官僚が代々、同じ客員研究員を務めていた。

泉田氏は当時の生活に使っていた口座(預金額約200万円)をカナダに残したままにしており、この口座の管理をカナダ在住の日本人男性に任せていた。その男性のもとに、2015年冬、カナダの銀行のマネージャーから電話があったというのだ。

「カナダの銀行のマネージャーを名乗る人が突然電話してきて、泉田さんの口座のことを聞きました。ほかの官僚のことは聞かなかったので不思議に思いました」

この男性によると、通産官僚は辞令が出ると、部屋の整理をしないまま帰国してしまう。だから、部屋の家具や家賃を精算した残りの現金を銀行に預け、通帳を保管していた。他の数人の通産官僚の通帳も持っているという。

決して高額とはいえず、しばらく資金移動もしていない泉田氏の銀行口座をカナダの金融当局が狙い撃ちする理由があるだろうか。

東京地検特捜部など捜査機関が政治家を逮捕する事件に着手する場合、まず国税庁が調査を始めるのが、ごく一般的だ。日本の捜査機関からカナダの金融機関に照会があったとも考えられる。

後日、泉田氏に「周辺に国税の調査が及んでいたようですね」と尋ねると、彼はニヤッとして、話した。

 

「元通産官僚と東電が癒着していると思われるのは心外だし、私は東電には厳格に接してきたから、カネについては普段から身ぎれいにしていた。カナダの預金は、毎年の資産公開でも明らかにしている。痛くもない腹をさぐられ、薄気味悪かった」

仮に国税の調査だったとしても調査の意図はわからないし、そんな調査ぐらいで知事を辞めるのか――。そう考える読者もたくさんいらっしゃるだろう。

私の手元に1冊の本がある。元福島県知事・佐藤栄佐久氏が著した『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』(平凡社)。佐藤氏はもともと原発容認派だったが、その後立場を変え、福島第二原発でのプルサーマル(プルトニウムを使ったMOX燃料による発電)の導入を認めなかった。

すると、「闘う知事」として知られた5期18年目の2006年、実弟がからむ贈収賄事件が発覚し追及を受け知事を辞任、収賄容疑で逮捕された。事件の詳細は省くが、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決が確定している(2012年、最高裁第1小法廷)。

不可思議なのは、判決で認定されたワイロ額が「0円」だったことだ。異例の司法判断について、佐藤氏は著書の中で、実弟を取り調べた検事が「知事は日本にとってよろしくない。いずれ抹殺する」と言ったというエピソードを検事名を特定して記している。佐藤氏からすれば、「国策に反発した政治家は無理矢理にでも政界から追放される」と言いたかったのだろう。

泉田氏もそんな立場だったのだろうかーー。私はいたずらに、「国策捜査」などといった謀略論を主張するつもりはない。だが過去に、「元公安調査庁長官が逮捕された事件(2007年)など明らかに国策捜査とみられる事件はあった」(元東京高検検事の郷原信郎氏)という見方もある。

09年、他の都府県知事と並ぶ泉田氏(左から二番目)【PHOTO】gettyimages

ならば泉田氏が「薄気味悪さ」を感じるのも無理はない。

新潟日報「泉田追及報道」の背景

さらに、泉田氏が「出馬撤回の9割」と指摘した新潟日報による「日本海横断航路のフェリー購入問題」も奇々怪々である。

経緯を簡潔に説明すると、新潟港の貿易拠点としての価値を上げたい新潟県と新潟経済界が、首都圏とロシア・ウラジオストックを結ぶ最短経路として日本海横断航路を計画した。官民が出資してつくった第3セクターの子会社が昨年8月末にフェリーを購入したが、速度不足で運行に適していないことが判明。購入準備のために県が出資した3億円がムダになる可能性が出てきた、という話だ。

新潟日報は、資本金の65%を県からの出資に頼る第3セクターとその子会社は県の支配下にあったから、フェリー購入のトラブルは県に責任があるとして、今年7月中旬以降に連日報道した。

一方の県は、第3セクターからフェリー購入を知らされたのは購入契約後で、船が運行に適していないことは知らなかったと主張。新潟日報の報道に対し、県側は7月18日から9月15日までの間に、「憶測にもとづく一方的な記事だ」などと12回の訂正申し入れをする事態になった。