寝酒は控える
枕を変えてみることもイビキを止める一つの方法だ。
千葉大学大学院医学研究院・呼吸器内科学教授の巽浩一郎氏が語る。
「枕が高すぎると、どうしても下顎が沈み、上気道がふさがりやすくなります。低ければいいというものでもないですが、いろいろ試して自分にあった物を探してみるといいと思います。仰向けにならないように、抱き枕に変えてもいいかもしれません」
携帯のカメラで夫の就寝中の動画を撮影し、後日、本人に見せるのも効果がある。自分がどれほどのイビキをかいているのか、自分の眠る姿を見れば、妻の気持ちも少しは理解できるだろう。
また、寝酒はぐっすり眠れると信じている人も多いが、これは大きな間違いだ。
「イビキを改善するためにはアルコールを控えることが必要です。寝酒や過度の飲酒は、筋肉が弛緩するため、舌根が落ちてきて気道を塞ぐので空気の流れが悪くなり、余計にイビキが発生します。
寝つきはよくなっても睡眠の質は下がる。イビキで悩んでいる奥さんは、晩酌を控えるよう夫に伝えたほうがいいですね」(巽氏)
最近は多くの「イビキ解消グッズ」が発売されているので、それを使用するのも一つの手だ。
「鼻呼吸の習慣をつけることも、イビキ改善に役立ちます。鼻の通りをよくする鼻腔拡張テープや鼻スプレー、鼻呼吸のために口をふさぐマウステープなども市販されているので一度試してみるのもいいと思います」(巽氏)
だが、これらの対処法ではすぐに収まらない、「イビキ問題」がある。大イビキをかいている最中に、突然呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」(SAS)だ。
「寝ている間に呼吸が何度も止まる病気で、10秒以上続く無呼吸が1時間に5回以上、一晩(7時間以上の睡眠)で30回以上起きると、SASであると定義されています」(前出の玉岡氏)
ではこの睡眠時無呼吸症候群をいち早く、解決するためにはどうすればいいのか。スリープ&ストレスクリニック院長の林田健一氏が語る。
「まずは寝るときに医療用マウスピースをすることです。強制的に下顎を出すことで気道が広がるのでイビキを防止します。
それでも無呼吸が解決しない場合は『CPAP(シーパップ)』(呼吸を補助する装置)を使うのが簡単で一番有効な対処法です。CPAPが部屋の空気を吸い込んで、鼻につけたマスク越しに加圧した空気を送り込む。圧がかかった空気が喉を広げてくれるので、呼吸が楽にできます。
CPAPは医療機関からのレンタルが一般的ですが、軽症の場合を除き、保険が利くので月額5000円ほどの負担で済みます。夫のイビキに悩んでいる奥様は、一度専門院に連れて行ってみてはいかがでしょうか」
睡眠時無呼吸症候群は、家族からの指摘が無ければ、自分ではなかなか気づきにくい。そのためにも家族の協力が必要となる。
東京天使病院睡眠呼吸センター長の高崎雄司氏は「イビキがひどいと寝室を別にしがちですが、これはおすすめできません」と語る。
「イビキの裏に隠れる、大きな病気を見逃して、取り返しのつかないことになってしまう可能性もあるので、夫婦一緒になってイビキの改善を目指していくのが望ましい。イビキに気づいてあげられるのは家族しかいませんからね」
夫のイビキがうるさすぎて眠れないのもストレスだが、そこには重大な病気が潜んでいる可能性があるのだ。
「週刊現代」2016年11月12日号より