なぜアイドルの「寿命」は2010年代に入って劇的に伸びたのか

「ヒットの方程式」が変わった
柴 那典 プロフィール

音源よりもライブで稼ぐ時代

では、なぜ「音楽は売れない」のに「バンドもアイドルも生き残る」時代になったのか?

そこには、一つのシンプルな解答がある。

音楽業界の構造が変わり、いまや音源よりも興行が重要な収益となっているから。つまり、CDよりもライブで稼ぐ時代になっているのだ。市場規模の変化をグラフ化するとそのことがハッキリする。

縮小が続く音楽ソフト市場に比べ、ライブ・エンタテインメント市場は好況だ。10年代初頭から動員数も売り上げも右肩上がりで拡大が続いている。

ぴあ総研の調べによると、2015年の音楽ライブ・エンタテインメントの市場規模は3,405億円。2010年からの5年間で2倍以上に市場が拡大した。この数字は、前述した2015年の音楽ソフトの市場規模(約2,544億円)をすでに追い抜いている。

音楽フェスの定着と拡大もここ十数年の音楽シーンの大きな変化だ。フジロックやサマーソニック、ロック・イン・ジャパン・フェスなど夏の大規模な野外フェスだけでなく、年末年始やゴールデンウィークや秋の連休も含め、一年中、様々なジャンルの音楽フェスティバルが全国各地で開催されるようになった。

アーティストにとって、ライブは大きな収益源となっている。90年代以前はライブに積極的でないスタンスのアーティストも多かったが、しかし、今のポピュラー音楽を巡る状況の中では、そういった活動のあり方が成立する例は少ない。

JASRACが発表している「著作権使用料等徴収実績」の推移もこのことを裏付ける。

種目別に見るとオーディオディスクなど「録音」部門は数字を落とし、その一方「演奏」部門が伸張している。その総額は2000年から2015年、微増と微減はあるものの1,000億〜1,200億円の間で推移し、大きな変動は見られない。

生の体験が重要になってきたという時代の変化を通して、音楽業界の産業構造も変わってきた。それによって実力あるアーティストはむしろタフに活動を続けることが可能になったのだ。

失われた「ヒットの方程式」

では、その半面で失われたものは何だったのだろうか?

 

2013年1月、『週刊ダイヤモンド』が「誰が音楽を殺したか?─Who’s killing Music?」という特集を組んでいる。「音楽産業は崩壊するか」「音楽家は生き残れるか」と、なかなかに刺激的な見出しが乱発される記事の中に、こんな一節がある。

「時代を彩るような新人がなかなか出てこない」
 業界関係者は一致してこう話す。AKB48らアイドルは社会現象となったが、音楽にだけ携わるアーティストでは、大ヒットを連発する人材はなかなか出てこない。
 数年前までは純粋にロックやダンスを目指す本格ミュージシャンでもアルバムが10万枚単位で売れることは多々あった。だが、「今は数万枚でよいほう」と先の音楽事務所の幹部は話す。特に中堅ランクの落ち込みは顕著だ。(『週刊ダイヤモンド』2013年1月12日号)

この記事では若手のアーティストがヒットを飛ばすことが難しくなった理由を二つ挙げている。

一つは、レコード会社が新人に投資する余裕がなくなったこと。そしてもう一つは、かつて有効だったプロモーション戦略が通用しなくなったことだ。

 1990年代は新人がドラマのテーマソングでタイアップし、音楽番組に出演すれば「次の日には2、3万枚レベルが、60万枚とかに跳ね上がった」(音楽事務所幹部)が、昨年、同じ戦略を取った若手バンドは「ほとんどチャートが動かない」(同)ありさまだった。 (前掲誌)

この記述からは、90年代の音楽産業がどんな「ヒットの方程式」を用い、それがどんなビジネスとなっていたのかが、逆によくわかる。

ドラマとのタイアップや音楽番組への出演などを仕掛け、とにかくアーティストをテレビに頻繁に露出させる。そこで認知を高め、話題を作れば、CDが飛ぶように売れていく。そうして得た資金を次なる新人に投下する。

そういう仕組みが90年代におけるメガヒットを生み出していた。しかし、その方法論はすでに通用しなくなっている。