破綻国家にたかる訴訟型「ハイエナ」ファンドのエグすぎる手口

狙われたら骨の髄までしゃぶられる
黒木 亮 プロフィール

ザンビアではドネガル・インターナショナルという米国のヘッジファンドが、1999年にザンビア向けの融資債権(元本と金利の合計)2983万ドルを328万ドルで買い、その後の遅延金利やペナルティを含めて約5500万ドルの支払いを求めて英国の裁判所に提訴し、英国内のザンビア政府の資産を差し押さえた上で勝訴判決をとり、最終的に約1550万ドルの支払いを2007年に受けた。

(このときはBBCやザ・ガーディアン紙が反ハイエナ・ファンド・キャンペーンを展開したため、ドネガルは要求額の3分の1以下で手を打たざるを得なくなった)。

ギリシャは、2009年10月に政権交代が起きたのをきっかけに、財政赤字の虚偽申告が発覚し、国債が一挙に格下げされて、経済危機に陥ったが、ダート・マネジメント、アウレリアス・キャピタル、エリオット・アソシエイツなどのヘッジファンドが、準拠法と裁判管轄が欧米になっているギリシャ国債を額面の4割程度でかき集め、2012年にギリシャが債権額の75%程度をカットする債務再編を実行した際にホールドアウトした。

EU、IMF、ECB(欧州中央銀行)の「トロイカ」から金融支援を受けるためには、是が非でも既存の債務者との返済問題を解決しなくてはならないギリシャ政府の弱みをついて、額面と金利・ペナルティの全額を支払わせ、短期の投資で濡れ手に粟の利益を上げたのだ。

たとえばダート・マネジメントは2012年5月に3億9000万ドル程度の支払いをギリシャから受けたと報じられており、買い付け価格がこの4割だとすれば、2億3400万ユーロ(当時の為替レートで234億円程度)の儲けを上げたことになる。

 

ヘッジファンド、債務国、NGOの三つ巴の闘い

こうした訴訟型ヘッジファンドの活動は、グリード(貪欲さ)に対して寛容な米国資本主義においても相当極端な投資家グループであり、問題視する人々は少なくない。

一方で、債務国側にも相当問題がある。

アルゼンチンやギリシャなどは真剣に返済することを考えずに安易に借入れを増やし、そのツケを債権者に回しており、コンゴ共和国にいたっては、債権者の差し押さえを免れるために、怪しげなスキームを作って原油を輸出し、大統領の取り巻きがその代金を懐に入れている(この事実は英国の裁判で認定された)。

こうした状況に対し、ジュビリー・デット・キャンペーンやグローバル・ウィットネスといった各国のNGOが、訴訟型ヘッジファンドの強奪的投資手法や腐敗国家の汚職行為を阻止しようと運動を続けている。

日本でも昨年亡くなったNGO活動家の北沢洋子さんなどが、外国のNGOと連携し、熱心に活動を行ってきた。先進国政府も腰を上げ、2008年頃から、ベルギーや英国で訴訟型ヘッジファンドの活動を阻止する法律が作られた(米国でも立法化の動きがあるが、ヘッジファンド勢の強力なロビー活動により実現していない)。

日本ではほとんど報道されていないが、国際金融の世界では、訴訟型ヘッジファンド、腐敗国家、NGOの三つ巴の闘いが繰り広げられてきたのである。この様子は、最近刊行した『国家とハイエナ』で描いたので、ご一読頂ければ幸いである。

大統領選では反トランプの急先鋒

ポール・シンガー氏のエリオット・マネジメントであるが、最近は、ソブリン案件よりも企業案件での活動が目を引く。

直近では、ドイツの3Dプリント会社SLMソリューションズ社の株の2割強を握って、GE(米)による同社の買収を阻止し、韓国のサムスン電子に投資して、持ち株会社と事業会社の分割・特別配当支払い・米ナスダック市場への上場・社外取締役制度の導入などを求めている。

また、7%の株を握った香港の東亜銀行の増資が不公平であるとして現地の裁判所に提訴し、日立製作所の連結対象会社であるイタリアのアンサルドSTS社の株式の29%を握って、9人の取締役のうち3人を送り込んだ。日本へも触手を伸ばし、不動産や経営再建中の三光汽船に投資をしている。

ポール・シンガー氏は、まもなく投票が行われる米大統領の予備選挙では、フロリダ州選出の上院議員マルコ・ルビオを支援し、彼を支持するスーパーPAC(特別政治活動委員会)に5百万ドルを献金した。

一方、ドナルド・トランプ候補に対しては共和党内でも最も批判的で、予備選ではトランプ選出を阻止するためのPACに多額の献金をした。シンガーは、「もしトランプが大統領になれば、世界的景気後退が」起きると述べ、大統領選では誰にも投票しないだろうとしている。

狙われた国家は、合法的手段で骨の髄までしゃぶられる…。恐るべき現実を描く、本格派国際金融小説! 「本書に書いてあることはすべて現実に起きたことである」(著者)