激変する音楽ビジネス、なぜ日本は「世界的潮流」に乗り遅れたのか?

音楽の未来、ヒットの未来
柴 那典 プロフィール

拡大するグローバル音楽産業

2015年が世界のレコード産業にとって歴史的なターニングポイントになった理由は、もう一つある。

1998年以来、17年ぶりに音楽産業がプラス成長を果たしたのである。IFPIは、2015年の世界音楽市場全体の収益が150億ドルとなり、前年に比べて3.2%増となったことを発表した。フランセス・ムーアはこう表現する。

「およそ20年におよぶ衰退の後、2015年、レコード産業は重要なマイルストーンを目にしました。音楽消費の爆発的な成長、グローバルな収益増が、数字として明らかになったのです。デジタルの売り上げがパッケージメディアの売り上げを初めて上回ったことは、音楽産業がデジタル時代に適応し、より強く、よりスマートに拡大していることを示しています」(IFPI Global Music Report 2016、訳は筆者)

市場の数字が示すのは、前述したストリーミング配信の収益が世界のレコード産業全体の成長の起爆剤となっていることだ。

10年代に入り、定額制ストリーミング配信サービスは急速な拡大を続けている。

2015年のデジタル配信売り上げ全体の中でも、ストリーミングによる収益が占める割合は43%となり、ダウンロードの45%に迫っている。おそらく2017年4月のIFPIの発表で、2016年に両者が逆転したことが報じられるはずだ。

〔PHOTO〕gettyimages

世界の潮流に乗り遅れた日本

所有からアクセスへ──。音楽の聴かれ方は抜本的に変わりつつある。

しかし、日本の音楽業界は、はっきりとその潮流に乗り遅れている。

日本レコード協会が2016年4月に発表した「日本のレコード産業2016」を見ると、2015年の音楽ソフト(CD、DVD、ブルーレイなど)の売り上げは2,544億円と、前年比ほぼ横ばいを続けている。

有料音楽配信売り上げは471億円(前年比108%)となり、そのうち定額制ストリーミング配信サービスの売り上げは124億円(前年比158%)。ストリーミング配信の売り上げは大きく伸びているが、全体に占める割合はまだ決して大きくはない。

パッケージメディアの売り上げが音楽市場の7割以上を占めている。「売れない」と言われ続けているCDがいまだに市場の主軸を占め、ダウンロード配信がいまだにデジタル音楽配信の多くのシェアを占めているのである。

なぜ日本では海外に比べて定額制ストリーミング配信サービスの普及が進んでいないのだろうか?

 

理由はシンプルだ。邦楽の最新曲が網羅されていないのである。配信を許諾していないアーティストが多く存在する。そうすると、リスナーにとってはCDを買うかレンタルするか、もしくはダウンロードする以外に楽曲を聴く選択肢がない、ということになる。

各国でそれぞれの音楽配信に最新ヒット曲がどれくらいあるかを数えてみると、その差は歴然となる。

2016年9月末時点で、1ヵ月における週間チャートの上位50曲の4週間分、のべ200曲のうちどれだけがストリーミング配信サービスに提供されているのかを数えてみた。

すると、アメリカとイギリスでは、スポティファイ、アップル・ミュージック、共に網羅率100%。後述するアデルのように配信開始を遅らせる例もあるが、基本的には、すべてのヒット曲がストリーミング配信に提供されている。

対して邦楽アーティストの新曲が提供されている割合は非常に少ない。

ビルボードの「ジャパンHot 100」の上位50曲の4週間分のうち、アップル・ミュージックに提供されているのは43%だ。LINE MUSICやAWAなど他のサービスもほぼ同じ数字となっている。

海外と比べて、かなりの差がある状況だ。YouTubeにミュージックビデオを公開しながら、ストリーミングには配信されていない楽曲もある。

若い世代の中にはもはやCDプレイヤーを持っていないリスナーも多い。きわめて不便な状況を強いていると言えるだろう。