日本映画の「製作委員会」ってなに? 独特の慣習がはらむ功罪

製作委員会方式の謎〈後編〉

前編はコチラ(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49875

製作委員会ってなんだろう?

映画製作における資金調達の方法として、日本映画界で主流となった「製作委員会方式」について、当時金融業界で仕事をしていた筆者が、国内外の識者にお話を伺いながら調べた経緯を、先月から連載している。

先月の記事では、製作委員会という組織が法人格を持たない点に注目して、これに起因する、主にビジネス面における問題点を検証した。

具体的には、製作委員会はいわゆる「会社」ではなく、日本の民法上の「任意組合」にあたる組織であり、この特異性が原因となって、諸外国において、あらゆる日本映画のリメイク案件が頓挫してきた経緯を振り返った。

1,200億円程度に留まる国内の邦画市場に比べて、アメリカ(約1兆1,000億円)や中国(約6,800億円)をはじめとする諸外国には、巨大な映画市場が存在する。こうした市場において、日本映画をリメイクする需要が非常に強いことを鑑みると、本来、邦画のリメイク権の販売は、一つの立派な輸出産業として成立していても不思議ではない。

しかし、米中を含む諸外国で実際にリメイクされる日本映画の数はごく僅かであり、こうした現状を精査すると、日本の映画界が、製作委員会という特殊な方法で映画を製作していることによる機会損失は、決して無視できない金額に及ぶと言わざるをえないのだ。

だが、ここで議論を終えてしまうと、製作委員会という仕組みのごく一面しか検証したことにならない。つまり、今日の日本映画界において、ほぼすべての作品が製作委員会方式によって製作されている現実に目を向けると、この資金調達方法には、他方で、多くの利点があると考えてみるのが自然である。

そこで今月は、日本で製作委員会方式が重宝される背景から、検証を続けてみたい。

〔PHOTO〕iStock

投資家と事業者が同一

製作委員会が法人格を持たないことに加えて、もう一点、当時金融業界で仕事をしていた筆者が驚いたのは、製作委員会においては、投資家と事業者が同一である、という点だ。

複数の投資家から資金を集め、これを一つの事業に充当するという、製作委員会方式に類似した仕組みは、映画産業の外でも、例えば不動産や石油開発を行う際、特別目的会社などの法人を事業母体として、頻繁に利用されている。しかしこのような資金調達の仕組みにおいては、投資家と事業者は別々である場合が多い。

つまり、投資家はあくまでも資金を拠出する役割だけを担い、これを使って実際に不動産もしくは石油開発を行うのは、不動産会社やエネルギー開発会社といった事業者なのだ。

投資家と事業者の役割を明確に分けることで、投資家としては、自らがノウハウを持たない事業に経済的に参加することが可能になり、また事業者としては、同じ産業内からだけでなく、より幅広い資本市場から資金を調達することが可能になる。特別目的会社などを母体とした資金調達方法は、資金力を持つ投資家と、ノウハウを持つ事業者が、それぞれ異なるリソースを持ち寄ることで成立しているのだ。

対照的に、製作委員会方式は、実際に映画製作、そして完成した作品の著作権運用を行う事業者が、同時に投資家でもあるという点が特徴的だ。つまり、興行会社、配給会社、制作会社、芸能事務所、広告代理店、テレビ局など、映画事業に従事するエンターテインメント産業の各社が、同時に、製作委員会に出資する投資家としての顔も持つのだ。

投資家と事業者が同一であることは、具体的に何を意味するのか?

 

最も重要と思われるのは、製作委員会の組合員が、資本的支出と、手数料収入とをバランスさせられる点だ。つまり、一方で投資家として資金を拠出する組合員は、もう一方で、事業者として、映画事業から何らかの収入を得る立場にいるため、投資そのものの収支にかかわらず、キャッシュフローの安定性を、一定程度担保することができる。

例えば、映画館を保有し、映画を上映する役割を担う興行会社は、(作品や時期によって料率は異なるものの)、興行手数料として、チケット収入の約50%を受け取ると言われている。つまり、仮に映画の興行成績が10億円だった場合、この金額を、事業母体である製作委員会に支払う前に、興行会社は、事業者として、5億円程度の手数料収入を確保することができる。

そのため、興行会社が、投資家として製作委員会に出資した金額が5億円以下であれば、仮に事業母体である製作委員会の収支が赤字に終わり、従って投資そのものの利回りがマイナスであっても、興行会社としては、出資相当額を、手数料収入だけで回収できる計算となるわけだ。

このように、興行会社のみならず、製作委員会に参加するすべての組合員が、映画事業から何らかの収入(配給会社の配給手数料、制作会社の制作者利益、芸能事務所の所属俳優出演料など)を得る立場にあるため、事業全体の損益にかかわらず、自社のキャッシュフローを、一定程度担保できる構造が成立している。

こうした中、各組合員は、事業者として見込める収入の範囲内のみにおいて、製作委員会に出資しているのが現実のようだ。