「4年間で8000万円」女子大生風俗嬢が稼ぎ、全て使い切るまで

オンナの収支報告書[2]
気鋭の文筆家・鈴木涼美さんが、現代のオンナのオカネの稼ぎ方・使い方事情をレポートする連載。今回から「4年間で8000万円」を稼ぎ、それを全て使い切った女子大生のお財布事情に肉薄します!

8000万円の4年間

「オカネで買えない価値がある」なんていうカード会社のコピーは超控えめに謙遜してるのであって、実はその価値は現代ではとてもとても少ない。美貌・身長・時間、オカネで買えないと信じられていたものがどんどん買えるようになって久しいし、それらはどんどん細部にまでわたっている。

そして、そういうかつては買えないと信じられてきたものは、バッグや口紅や航空券なんかと違って、そもそも値段をつけられるのに慣れていないが故に、いくらつぎ込んでも溢れることのないコップみたいなものであったりもするのだ。

JR新宿駅東口を出て区役所まで歩き、区役所通り沿いにある喫茶店で私はモトコさんと待ち合わせをした。実は初対面ではなく、2年位前に私の高校時代の友人を介して一度だけ飲み会で会ったことがある。その時、24歳だった彼女がスマホのアルバムから何人かのホストの写真を見せてくれたのを思い出して、私は久しぶりに連絡をとった。

2年弱ぶりに見る彼女は、枝毛だらけだった明るい茶髪を限りなく地毛に近い焦げ茶色に染め替えていた。今年の5月にそれまでの生活を「卒業」して、ほとんどプータローに近い生活をしていたが、今は恵比寿にあるラウンジで気ままに働きながら、簿記の資格をとるための塾に通おうか通うまいか悩んでいるところだという。

そもそも10万円の家賃で同じ所に4年以上住み、その間一度も旅行などには行かず、貰い物だというプラダの革製のバッグを永遠に使い続けていた彼女の生活が極端に地味なものに変貌したわけではないのだそうだ。

彼女はこの4年間で、正規の収入・非正規の副収入(お小遣いやチップなど)を合わせて少なく見積もっても8000万円稼いでいた。最低限の家賃や光熱費・生活用品や美容代を覗いてそのほとんどをこの区役所通り近辺の飲み屋に使い切ったという。

ありがちなホスト通いの代償だが、私は彼女に頼み込んで、使った金額を覚えている限りできるだけ細かくリストアップしてもらった。

[PHOTO]gettyimages

彼女が指名して通ったホストクラブはこの4年間で2軒ある。最初の1年間はG店。中堅どころだという24歳のホストを指名していた。1年間で使った金額は約600万円。その後、F店の幹部ホストNに心変わりし、つい最近まで3年間通い続けた。

その間、彼女が「サブ」と呼ぶ他の店のホストも3人ほど指名したことがあるが、そちらのお会計は4年間で3人合わせても50万円程度。それ以外のオカネはほぼすべてNのいたF店に支払った。

私もホストクラブには一度や二度ではなく行ったことがあるので料金システムは承知しているつもりだし、人によっては一晩で何百万円も使うことが可能だというのも、実際にそういう「太客」が支えている商売の形態だという知識もあったが、それにしても途方のない金額に思えた。

彼女に「もっと安く飲んでいる客もたくさんいる気がするけど」と聞いてみても「麻痺してたから」「義務みたいになってた」「自分に酔ってた」といまいち要領の悪い答えしか返ってこない。

金銭感覚の麻痺なんていうのは急速に高収入になった場合には老若男女問わず起こりえることだが、彼女の収支を聞くとどう考えても、急速に高収入になったというより、ホストクラブで使う金額に合わせて多少無理をして収入を上げていったように見える。

例えば臨時収入の祝いだとか、頑張ったご褒美だとか、そもそも高収入の嗜みとしてとかいって通われることの多いキャバクラやクラブと違って、売掛システムを主とするホストクラブは「飲んでから稼げ」の精神が根本にある。

客は、その日使った金額が記入してある伝票を持ち帰り、月末までに使った金額を次の月の入金日(大抵3日や5日)までにまとめて支払う。銀座で飲み歩く、立場と身分のある男性とは違い、歌舞伎町のホストクラブで高額を使う客は、モトコさんのような風俗店勤務であったり、個人的な愛人、水商売の女性が約8割を占める。

当然、とりっぱぐれはある。売掛を飛んで逃げた客を追い詰めたところで、彼女が消費者金融などでオカネを作れるとは限らないし、そもそも行方を捕捉するのも大変だ。だからホストたちは交際しているふりをしたり、お客の家を訪問したりして、なんとか逃げないでオカネを使い続けるよう客を管理するのである。

それにしても途方も無い金額を店に借金する形をとってまで使い切る彼女たちは何を買っているのか。少なくとも麒麟淡麗350ミリ缶やヴーヴ・クリコを買っているわけではないのは確かだ。

入り口は3000円、次回は3万円

どうして何の不自由もない子がこんな仕事を?という、実は社会学の研究室などでは現代社会を読み解くヒントとでも言わんばかりに話題の対象になりやすいテーゼがあり、女子高生の援助交際から始まり、女子大生の風俗バイトや、お嬢様のAV出演など、ちょっとした社会問題が起きる度に識者たちがあれやこれやと批評したがる。

私もまたそういった話題をよく取り扱っていたのだが、とある風俗嬢に「それみんなホスト狂いだっただけじゃない?」と言われて、なるほど確かに現代社会の謎の一部は単純明快に説明がついてしまった。

たしかに例え親が50万円仕送りしてくれるようなセレブな大学生でも、ホストに通おうと思えば風俗嬢に転身するのは自然の成り行きであろう。同じようになんであんなに常識的だった子が嘘をついて大金をせびるのか? 何千万円も客からだまし取って何をしていたのか?的なワイドショーの話題も大部分は同じように説明がつく。

モトコさんもまた、表向きそういった現代社会の謎と仕分けられるような何不自由ない女子大生から気合の入った風俗嬢になったクチである。

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