「初代総局長は日本人」インターポールのサイバー部門に潜入!

独占インタビュー【前編】
山田 敏弘 プロフィール

なぜシンガポールに本部が?

その後、一度警察庁に戻った中谷は、2012年から再びインターポールに加わり、サイバー部門に勤めながら、IGCIの立ち上げに関わっていくのである。とはいえ、2012年当時、機構内のサイバー対策部門メンバーは中谷を含めて3人しかいなかった。そこから、世界各国の警察当局などから130人ほどの精鋭が集結するまでにIGCIを築き上げていくのだから、中谷の熱意には恐れ入る。

そもそもなぜフランスに本部のあるインターポールが、サイバー部門を本部から1万キロも離れたシンガポールに置くことにしたのだろうか。そこには、中谷の明確なビジョンがあった。

シンガポールのIGCI本部(筆者撮影)

インターポールには英語、フランス語、スペイン語、アラビア語の4つの「公用語」があるのだが、同組織に関連する施設を設置する場所は、大前提として少なくともそのうちのどれかが公用語である必要がある。また政治的・経済的に国が安定していることも条件となる。こうした条件をクリアしているシンガポールが、IGCIのホスト国として名乗りを挙げた。

シンガポールはとにかく好条件を提示し、誘致を狙った。というのも、筆者も暮らしたことがあるが、この国は、イメージ戦略に大変力を入れている。世界に向けて様々なPRを行い、「安全な都市」「治安のいい国」などの国際的なランキングに食い込むよう、国を挙げて取り組むのだ。

インターポールのような国際機関がシンガポールに存在すれば、治安や安定感などのイメージアップに寄与すると考え、何としても誘致したかったようだ。加えて、世界中から駐在員が来るようになり、国際会議などが開催されることで国に金が落ちるという、経済効果も勘定していたようだ。

シンガポールは、大使館などが立つ高級な「タングリン地区」の広い土地を、たったの1ドルの賃料でインターポールに提供することを約束した。個性的な6階建てのインターポールの建物も、その90%以上をシンガポールが負担したという歓待ぶりである。

 

一方、中谷にはこんな思いがあった。

「インターポールという組織はやはり欧州中心であり、ヨーロッパの国々が中心となってやっている機関という印象が強い。事実、アジアで大きなプレゼンスはなかった。IGCIをシンガポールもってくれば、アジアそのもののプレゼンスが上がり、アジア諸国にとってインターポールがすごく身近になります。これがすごく大きい。実際、その狙い通りになっていますし、そうなると急増するサイバー犯罪と戦うために各国との情報共有もしやすくなるのです」

そして「今、IGCIの存在によって、アジア国家間で、新たな信頼感が生まれ始めている」と、中谷は言う。2015年3月からは、サイバー攻撃に対する日中韓の密な協力が進み、「3カ国のサイバーの責任者、ディレクターが集まって問題点をお互いに情報共有して、具体的なケースを含めて、お互いに何ができるのか直接会話を始めている。

「IGCIが出来るまでは考えられなかったことです。シンガポールに本部があることで、みな連帯の意識を強めているのです」。